東方プロジェクト・ネタバトルSS 東方殴り巫女伝説 〜Bare Knuckle Players〜 『開催宣言』               ※ ※ ※ 「――と、言うわけで、誰かのひとことから始まった幻想郷格闘ごっこ大会。司会、実況 はわたくし、射命丸文でお送りさせていただきます!」  そういう宣言から、その催しは始まった。  博麗神社の境内特設リングに集まった人妖の数は百人を少々上回る。翌日には新しい年 が訪れるという時期なのだが、師走の名の通りに走り回る者の数はそれほど多くはなかっ たようだ。  それもそのはずで、その場に集まっているのは妖怪の少女ばかり。歳末といえどもやる ことは自分の家の掃除程度で、面倒臭いおせち料理など彼岸の彼方の連中ばかりであった。  むしろ、 「え? 今日神社にくれば宴会しながら正月迎えられるって聞いたんだけど?」 「タダでご飯もらえる場所ってここ?」 「ついに巫女が慈善事業に目覚めたって話だけど」  と、どうせなら楽して生きようという魂胆がありありの妖怪たちは、この降って沸いた ような突然の年末行事にかこつけて、腹いっぱいの状況で初詣までこなしてやろうという 気満々である。  そういう面々を眺め渡しながら、リング横の放送席に座った文は常よりも畏まった口調 で開会の挨拶を続ける。 「続いて、今大会の解説を担当していただくお二人を紹介させていただきます。まずはお 馴染み、今年度売れない道具店ランキング一位、香霖堂店主の森近霖之助さん!」  この状況を見れば、妖怪とはいえ「少女という生き物はここまで怠惰になったのか」と 世の男共は嘆き悲しみたくなるものなのだが、司会である文からスキマ妖怪提供の拡声器 ――マイクを渡された霖之助は、その世の男共とは意見を異とする少数派であった。  つまり、 (……昔からこんなものだ)  諦めきった理解あるため息をつきつつ、彼は電池二本で動く珍しい道具に向かって声を 発する。 「別に売れてないわけじゃない。ツケでの販売が多いからそう見えるだけだ。心当たりの ある者は、今年が終わるまでに僕に代金を支払うように」 「あ〜、店主。公共電波で荒唐無稽なことを言わないでください」 「荒唐無稽……」 「巫女と魔法使いからお金を取り立てるのは、私でも無理ですよ」  同情するような文の視線に、しかし霖之助はいやいやわかっていないな、と唇の端を持 ち上げる。その自信ありげな様子に、おやっと文は目を見張る。 「何か勝算が? いつもは言っても無駄なのですよね?」 「いつも無駄だから今日言うんだよ。今日が何の日か、わかってるだろう?」 「はあ、大晦日ですね」  時期は冬も冬、来年最初の冬を迎えるために、今年最後の冬の日を堪能する一日だ。  その、大晦日にのみある催しとは何なのか。  ピンと来たのは、文や霖之助と一緒に放送席に座る半人半獣の少女――慧音だ。 「なるほど、除夜の鐘だな」 「おや。――続きましては、ふらふら飛んでいて痛いお世話にあった方も多いはず!? 人里は彼女の縄張りだから近づくな! 半人半獣、ワーハクタクの上白沢慧音さん!」 「……別に縄張りだから守ってるわけじゃないぞ」  文の妖怪向けの紹介口上にムッとしつつも、慧音はマイクを受け取って教師然と言葉を 紡ぐ。 「森近氏が言っていたことを引き継ぐ形になるが、今日は里の除夜の鐘が鳴る日だ。古来 より、除夜の鐘の百八つの音には煩悩を打ち消す力が宿っているとされ、人々は年の暮れ から新年にかけてその音に耳を傾け、新しい一年こそは清廉で潔白な生き様を送れるよう にと、古い一年の罪を振り返ってきた」 「ああ、また関係ないことを……」  文があちゃーと手で額を押さえるが、お構い無しに慧音は声を張り上げる。 「お前たちも今日は一年間の自分の行いを振り返り、その反省を来年に生かしてもらいた い。その上で、今年の宴会収めであるこの大会の観戦を思い切り楽しんでいってもらいた いというのが、私の希望だ。以上!」 「お〜、強引にまとめましたね?」 「……何人が真面目に聞いているかだがな」  慧音が自分の仕事を忘れていなかったことに感心したように拍手する文に、彼女は苦笑 混じりにマイクを返す。  そんな慧音に、霖之助は他の者に聞こえないように密かに耳打ちした。 「まあ、聞いていようが聞いていまいが関係ないさ。どうせ除夜の鐘は鳴る」 「それはそうだが……」 「自戒よりは弱いかもしれないが、それでも除夜の鐘の魔力は妖怪たちにも多少は通用す る。除夜の鐘が何故百八回なのか、知っているかい?」  無言で、慧音はうなずいた。 「『眼耳鼻舌身意』の六根、三つの状態『好悪平』、それらの『浄染』。全てが『前世今 世来世』の三世に存在すると考え、六、三、二、三の乗算で百八――つまり人に関わる全 ての種類の煩悩を表しているとか」 「そう。人間の状態をその百八で表し、そこに同様に、十二の月、二十四の節気、七十二 候を積算した百八で『一年』を表す」  わかるかい、と霖之助は一個一個指で数字を作って見せながら言う。 「この数字の組み合わせは、当然だけど魔法だ。意味のある数字の掛け合わせ、意図的な 言葉の組み換え、それを寺の僧が煩悩破りの意志をもって巨大なマジックアイテムである 鐘を叩いて発動させる。これほど基本に則った魔法を公然に行わせていたんだから、時の 為政者たちは――」 「あの、そろそろ次に行ってよろしいでしょうか?」  段々と調子に乗り、口調もリズミカルになっていく霖之助を止めたのは、マイクによる 文のひとことであった。  会場の視線が一斉に霖之助に集まり、静まり返った場内に「あははは、こいつら来年の 話なんかしてやがるよ〜!」という子鬼の大爆笑だけが響き渡る。  コホン、と咳払いを一つ。 「そういうわけで、今日はツケを払わせるにはちょうど良い日だということだよ。毎年、 魔理沙も霊夢も除夜の鐘のおかげで年始だけは素直になるからね」  まとめた。  そんな広範囲の威力の薄い魔法があの巫女や魔法使いに効くんですかね〜、と思いつつ、 文はつっこんだ。 「それはお年玉が欲しいだけなのでは?」 「…………」  沈黙した霖之助に、慧音はご愁傷様とその背中を叩いてやった。そして、文は次なる説 明の段取りに入る。 「さて、それではここで今大会の最高審判長の紹介をさせていただきます。誉れ高きは楽 園の裁判長。私に白黒つけられないものはこの世に存在しない! 誰もが一度は世話にな る。嘘はつくな危険だぞ!? わざわざ来ていただきました、四季映姫・ヤマザナドゥ。 閻魔様です!」  その紹介が早いか、それとも空間に闇が広がるのが早かったか。リングの上空、そこに 開いた空間の裂け目から、名前を呼ばれた映姫がいつもの通りに卒塔婆の笏を構えて現れ る。  直後、 「大晦日に浮かれて夜遊びをする人間を襲いなさい。それが今のあなたたちに積める善行 よ」  いきなり物騒なことを言ったりした。  ともあれ、いきなり妖怪倫理を説くところから始めた映姫は、胸元につけた小型マイク の調子を確認するように二、三回「あ〜、あ〜」と声を出してからリングの上に降り立っ た。 「ご紹介に預かりました、四季映姫です。私から言うことは一つだけ」  厳かに、あらゆる者の胸に届くように。  彼女は言った。 「私の前で不正を行うことの意味を良く考えて、試合に挑むように」  その言葉に、妖怪たちはゴクリと唾を飲み込んだ。  死んだ後にお世話になる閻魔様に文句を言える者など、さすがにいないのである。  もっとも、 「何さ、偉そうに。あたいがガツンと言ってきてやるよ!」 「ダメ、チルノちゃんダメ! 閻魔様だから、あれ閻魔様!」  一部の妖精の頭には、あまり正しい意味で届かなかったようであったが。  それを見て、映姫は苦笑しながらもうなずいてみせる。 「まあ、妖精らしくてよろしい」 「きー! 春の仕返しだー! りべんじだー!」 「だからダメ! ダメ絶対! のーりべんじ!」  氷の妖精一匹と、それを止める大妖精が一匹。平和だなぁ、と皆が微妙に和んでいるう ちに、放送席までやってきた妖怪兎のてゐに耳打ちされた文が再びマイクに向かう。 「ただ今入りました情報によりますと、会場の皆様からの観戦料――『持ち込み食材・酒』 の回収が終了した模様です。それらの食材はこれより紅魔館の妖精メイドの皆さんに調理 していただき、出来上がり次第会場に運ばれてきますので、お楽しみに。監督は会場と紅 魔館を往復するメイド長が担当してくださるので、味の方も安心です。余った食材は今回 の会場提供者である巫女、博麗霊夢さんに提供されますので、皆さん余らないように食べ て食べて食べまくるようにしてください」  それでは、と。 「『第一回幻想郷格闘ごっこワンDAYトーナメント』を開催いたします!」                              『開催宣言』――決着!