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                物忌語


                 1


 平安時代、神宮(おみや)には物忌(ものいみ)と呼ばれる子供たちがいた。全部で九
人。
 順番に大物忌、宮守、地祭、酒作、清酒作、瀧祭、御塩焼、土師器作、山向の九人であ
る。
 彼ら彼女らは地元で選抜され、物心つかない頃から十二の歳まで神様たちにお仕えする
わけだが、もちろん幼い子供のこと、作法は出来ない、重い物を持たせるには危険などと
彼ら彼女らを補佐する役職が生まれるのは至極自然の成り行きだった。
 それが物忌父。子供とは違って作法も重い物も大丈夫な優秀な人材たちである。この中
から将来の神宮の禰宜(ねぎ)──神主総まとめのようなもの──が選抜されたという辺
りからも、役職の重要性がうかがえる。
 これら少年少女大人たちの中でも特別な位置にいるのが、大物忌と大物忌父である。
 大物忌は天照大神(あめてらしますおおみかみ)の『最も近く』に仕え、何事があろう
とも神宮外に出ることは許されない。大神のそばに仕えるのは禰宜も一緒だが、その禰宜
ですら十日交替、一月に三人で仕えるのと比べ、あまりにも大物忌の役目は重い。
 大物忌こそが、日出づる国で最も大神に近しい存在、侵すべからず神の娘なのである。
 というわけで、大物忌父の実際の仕事は大物忌の代行であるから多忙を極める。おそら
く年端もいかない女の子の首をきゅっと絞めたくなるほどに辛い仕事だったはずだが、偉
いものでそういう事件が起きたという話は伝わっていない。大物忌父として相応しい者が
その役職に就いていた証ではないだろうか。
 すくなくとも、と食事の席で少女たちは言うのだった。
「うちは宇内(うだい)はんより出来た人知らんわあ」
「そうやなあ。かがりちゃん、ええなあ」
「そうなん?」
 同僚であるあやね、かずね、いわねに囲まれて遅い昼食をとっていたかがりは器用にシ
ラスを一匹だけつまんで口に放り込んだ。
 場所は少女たちに館とだけ呼ばれている建物だ。神宮の中に存在する建物で、物忌たち
が使用する彼女たちの住まいである。今日も今日とて早朝からの祭事を終えた少女たちは、
一箇所に集まって談話している。
「そうなんよ。見てみい、うちらの父(ちち)はんらみんなおっさんなんよ」
「宇内はんはまだ二十一……ええなあ」
「かがりちゃん、正月来たらお役御免やん。そしたら半年は宇内はんの屋敷で暮らすんよ」
「絵になるわあ」
「うちら応援してるさかい、がんばるんよ」
「い、いややわあ。あやねちゃんたち何言うと。宇内はんはお偉い人なんよ。うちなんか
ただの地方役人の娘や」
「そこがええんよ!」
「お役御免したらかがりちゃん御方になるんよ。そしたら身分なんか関係ないわあ」
「御方?」
 箸を止めて首を傾げるかがりに、同じような顔をした三人の少女はうんうんと頷いて言
った。
「大物忌(おおものいみ)のお役御免した子は御方って呼ばれて一生もてはやされるんよ」
「男も好き放題やわ」
「ええなあ」
「な、何がええのそんなの。それってお役御免してないのと変わらんっ」
 むっとしてかがりが言うと、三人は顔を見合わせてクスクスと笑った。そうしていると、
長年一緒にいるかがりにも誰が誰だか見分けがつかなくなってくる。
 あやね、かずね、いわねはそれぞれ地祭(とこまつり)、酒作(さかつこ)、御塩焼(み
さき)の役についている物忌だ。姉妹というわけではないのだが、不思議と似通った容貌
の持ち主たちで、今も服さえ違わなければ彼女たちの物忌父でさえ見分けがつかないだろ
う。
 かがりは大物忌の役についている少女だった。三人と同じく、現在十一歳。日頃良い物
を食べているだけに艶やかな黒髪と、不格好になる一歩手前でバランスをとっている厚め
の唇、太陽神に仕えているだけに陽性の明るい瞳を持つ少女だ。
 同僚たちに好き勝手言われたかがりは、箸を置いて言う。
「そんなこんな言うて……うちらもう本当にお役御免なんよ? ここを出たらもう会えへ
んかもしれんのに……そんなの、うちは嫌や」
「宇内はんには会えるやん」
「話を戻さんっ。うちはあんたらのこと言ってるんよ!」
「いややわ……うちら女同士には興味ないん」
「あ、でもうちかがりちゃんと一回ちゅーしてん」
「え、ほんま?」
「昔転んだ時にしてん。なあ、かがりちゃん」
「なんで嬉しそうに言うん!?」
「いわねそういう趣味あったん……」
「別にかずねとしてもええよ」
「いやや。うちは好きな男に初めてをやるんよ」
「だからどうして話がそっちに行くん。うちは後少しの時間をみんなと一緒に……聞いと
る!?」
「聞いてるからそう怒鳴らんとこ」
「つまりかがりちゃんはうちらのことが大好きなんや」
「そうや、好きや!」
「可愛いわあ」
「可愛いわあ」
「可愛いわあ」
「お、重いわあ、退いてっ!」
「こらあああああ!」
「っ!?」
 一喝がじゃれ合っていた四人を一斉に振り向かせた。いつの間にやって来ていたのか、
三十過ぎの神主姿の男がこめかみに血管を浮かせて立っていた。
「父はん」
「あやね、お前はまたかがりで遊んで……お前だけは問題を起こすなと言っているだろう
が!」
 ずんずんと男が歩いてくると、あやねがこっそりと他の三人に舌を出してから立ち上が
った。
「何よ、うちらの部屋に無断で入るは父はんでもあかんのとちゃう? うちらが問題起こ
したら父はんたちの責任とはいえ、うちら父はんたちの出世の道具と違うんよ」
「話を飛ばすなっ。今日は仕事があるだろうが、あやね、かがりもだっ」
「は?」
「嘘!?」
 あやねとかがりは顔を見合わせた。そうして、二人同時にあっと声を上げた。
「正月の練習や!」
「忘れとったっ」
「最後の仕事だろうが……まったく、ところで片桐の紋はいないか?」
「宇内はんは女の部屋に押し入るような無粋はせんわあ。ねえ、かがりちゃん」
「う……い、いえ」
 頷きかけたかがりは、あやねの物忌父に睨まれて首を横に振った。
「何が女だ、ガキが……早く行け」
「は〜い」
 二人は揃って返事をし、そこだけは作法通りの礼をした。さすがに文句のつけようの無
い礼をされては物忌父もそれ以上ケチをつけることは出来ず、部屋を出た二人の後に続い
た。
 そして、館を出たところだった。
 かがりは、そこに自分の物忌父を見つけて足を止めた。物忌父にしては随分と若い青年
だ。祭式用の衣に身を包み、無愛想な顔がかがりを見つけて瞳を動かした。
(相変わらず無愛想やね)
 顔だけは良い美青年に心の中で呟き、かがりは頬を赤らめてそっぽを向いた。
 真部宇内(まなべ・うだい)。片桐の紋とも呼ばれる、若くして大物忌父の大役を任さ
れた青年は、目を細めて自分の娘役を向かえるのだった。

                 ※

「絶対に二人はらぶらぶなんよ。間違いあらへん」
「でもいわね、もう時間が無いやん」
「時間が無くなった時の時間は普段の倍とちゃう? 何とかしてかがりちゃんと宇内はん
をくっつけるんや」
「具体的に言うとどうするん?」
「当たり前や」
 と、いわねはかずねの耳元でぼそぼそと言い、かずねは頬に手を当てて身体をよじった。
「いややわ、恥ずかしい〜」
「言ったうちまで恥ずかしいわあ。ああ、顔が熱い、どないしよ」
 うふふ、と二人は着物の袖で顔を隠した。目から上を覗かせて頷き合い、また笑う。
 かがりとあやねの二人が出て言ってしまった部屋で、二人は絵巻物を取りだして向かい
合った間に広げていた。風流な女ったらしが主人公の絵巻物だ。何巻にも分けられている
ものの一つだが、それでもかなりの量があり、部屋の端まで届きそうな勢いである。生垣
の外から女性の屋敷を覗いたりだとか、一歩間違えば犯罪であるのに風流の一言ですまさ
れているのが何とも面白い。
 物忌として物心つく前から神域で暮らす少女たちにさすがに同情するのか、大人たちは
様々なものを与えてくれる。この絵巻物も、都に行った神職が持ち帰ってきた、本来なら
ば貴族の娘でしか見ることが出来ないようなものである。
 そのことがわかっているのかわかっていないのか、少女たちは絵巻物をとても大切にし
て、何度も繰り返し眺めてはため息をついていた。
「うちらも都に行ってみたいなあ」
「そうやねえ」
 ふう、と今日もため息。
 都どころか、神宮の外の世界を、少女たちは知らない。
 一に神様、二に神様。三四も神様、五に神様。両手では数え切れない神様の社がある神
宮では、全てが神様中心に動いている。そのことに不満はないが、やはり憧れるものはあ
るいわねたちである。
「物忌のお役が終わったら家に帰って……うちらの親って、どんな人やろ?」
「父はんよりはええ人やろか?」
「……帰りたくないなあ」
「そうやねえ」
 袖で顔を隠す。今度は、寂しそうな顔を相手に見せないためだ。
 何だかんだ言っても、いわねもかずねもかがりのように皆と別れることに不安を抱いて
いた。本当の姉妹以上に手を取り合って生きてきたのだ、今さら別れると言われてすぐに
は納得できない。
 だが、時間はすぐにやってくる。一月も経たないうちに年は入れ替わり、正月には四人
は揃って十二歳になる。
 それは、別れの時を意味する年齢であった。
「いややねえ……」
「そうやなあ……あやねなら、何とかしてくれるやろか?」
 顔はそっくりだが、三人の中で一番優秀で、さらに物忌たちの中でもリーダーシップを
張る少女の名前を呟き、二人はこつんと額をぶつけ合った。





                 2


「子守ももう終わりか……片桐の紋も肩の荷が下りるだろう」
「ええ」
 あやねの物忌父に言われ、応えたのは宇内だ。言葉少なく応える青年は、烏帽子をきっ
ちりと被って文台に向かっていた。自分の担当する大物忌のかがりに対する今日の練習の
注意点を書きまとめているのだ。
「まめだな」
「性分です」
 やはり言葉少ない宇内が筆を走らせると、流暢な文字が驚くほどの早さで書かれていく。
 それを見て感心し、物忌父は言う。
「片桐の紋、お前の父君はお前を都に参内させたかったらしいが、それもよくわかる。お
前なら八位から始めてもかなりのところにまで出世できただろうに……」
「もはや出世の道がないような仰りようですね」
 あまり興味なさそうに聞いていた宇内は、チラリと物忌父を見た。手元は大丈夫かと心
配になるが、ちょうど筆の墨が切れたのか、墨汁に筆をつけたところだった。
「だが、禰宜に選ばれるにしてもお前はまだ若い……もちろん、このまま勤めれば将来的
には有望だが」
「それは私の本意ではありません。私は、もともと都へ向かいたかったので」
「ほう。片桐の紋にもいっぱしの若者らしい都への憧れというものがあったか」
「少し違います。私は、自分がこの才でどれほどのことが出来るのか、試してみたいので
すよ」
 表情も変えず、宇内は言った。
 才、だ。
 確かに宇内は有能だった。幼い頃から仕込まれた和歌や文学知識はとうの昔に教えの師
を越え、武芸でも矢合わせで全ての矢を的の中心に命中させるほどの腕前を持つ。
 教養溢れる文武両道の青年。かつて帝の覚えめでたく片桐の枝を授かり、それを紋とし
て伝える真部氏では、宇内をまさに片桐の枝を授かった先祖の再来として片桐の紋と呼ぶ
ようになった。それが神宮内でも広まり、宇内は片桐の紋と気軽に呼ばれている。
「ふむ、お前くらいならそう言っても許されるか。その年齢からでは難しいが……では、
やはり現在の役は不満だったか」
「いえ、そういうわけでもありません」
 それには少し眉根を寄せて、宇内は紙に走らせる筆を止めた。
「しかし、他の大人しい物忌に比べて、あの四人……うちのあやねもだが、かがりの相手
は気疲れもあるだろう」
「気疲れ……ですか」
 宇内は苦笑して、最後の文字を書いて筆を置いた。後は乾くのを待つだけだ。
 宇内の珍しい苦笑に、物忌父は興味を引かれたが、ここで訊いては噂話が好きな軽い男
と思われるかもしれないと短く頷くに止めておいた。
 ともあれ、この宇内という青年、物忌父たちにとっても一目置かざるを得ない存在であ
った。
 他の場所でそれなりに実績を上げて物忌父になった者たちは、十五歳の少年が自分たち
の同僚と聞かされて驚いたものだ。利発そうな顔つきの少年は、これまた驚いたことに、
一年と経たないうちにかがりを大物忌に相応しい作法を身につけた者に成長させた。
「あの頃は、年輩の方々に少しでも認められるようにと焦っていましたから」
 と現在宇内は言うが、簡単なことではないことは、同じように物忌たちの補佐を任され
た物忌父たちにはわかっていた。
 ただの少年ではない。確かに大物忌父になるべくして選ばれた者なのだ、と言葉でも何
でもなく、実績で宇内は証明したのである。
「ともあれ、片桐の紋は都に上がるか……期待しておるよ」
「期待にはそえると思いますが」
 さらりと言ってみせる宇内なのであった。

                 ※

 神宮の最も神聖な場所。そこに入れる人物は、現在日出づる国にただ一人だけだ。
 それが、かがりである。
 禰宜でも入ることが出来ない最後の場所。天照大神の御前に控えたかがりは、正座して
物思いに耽っていた。
 考えるべきことは色々ある。
 年末、年始の祭祀のこと。もうすぐ別れがやってくる仲良しの三人のこと。自分の家の
人間はどういう人間なのだろうか、ということ。そして、宇内のことだ。
(うちは宇内はんのことをそういうふうに思ってるわけじゃなく……ただぽーっとしてふ
わぁ、なだけや)
 なかなかフォーリングな単語を頭に浮かべ、かがりは瞼を下ろす。
(宇内はん、いつも無愛想やし)
 なるほど、回想すればどの宇内の顔もむっつりと揺るぎのない無愛想な顔である。表情
が動かないわけではなく、愛想が無いわけだ。
 本来、人は自分一人では出来ないことがあるからこそ、人間関係を円滑にするために愛
想というものを振りまく。時には出世のためという愛想もあるだろう。だが、そう言った
ものが宇内には欠けていた。
 私は一人でやる、一人で出来る、と。そう言った雰囲気が彼を頼りがいのある青年に見
せる。事実、物忌たちは物忌父の中で宇内に一番懐いていた。父ではなく兄といった年齢
が合っていたのかもしれない。
(それでも十も歳が離れているんやなあ……)
 はああ、と深い深いため息をかがりは洩らした。そのため息に、自分でハッとして自分
の回想を払うように頭の上で手を動かす。
「お、御柱はん見んといてっ」
 大神に恥じらうように頬を染め、かがりは胸を撫で下ろした。自分を落ち着け、再度回
想。
 宇内は頭ごなしに叱るような物忌父ではなかった。かがりが大物忌として目に余る失敗
をしても眉を動かして、今のはここが悪かった、だから次はこうするように、と注意する。
その注意は的確で、だからかがりはどんどん祭祀作法を身につけた。
 そのことが裏目に出たこともある。
 習い事がたくさんあった日、かがりはそれが嫌で、一番最初の習い事でわざと失敗した
のだ。
 言われても言われてもわざと失敗する。ちょうど、自分の生活に疑問を抱き、反発心を
抱いていた時期だった。
 宇内は文句も言わず、かがりに教え続けた。
 今考えると、幼いかがりの「わざと」など、あからさまにそうとわかっていただろうに、
宇内は何も言わなかった。
 そうして、その日結局習い事は進まなかった。
 だが、かがりはその夜に見たのだ。
「甘やかすにもほどがあるのではないか?」
 咎めるように言った他の物忌父に、宇内はいつも通りの表情で応えた。
「かがりにも調子の悪い日はあります。失礼ながら、私たちは彼女たちを教えるのではな
く、育てるのが仕事だと思っていますので」
 宇内は、かがりがその気になるのを待っていた。
 だから、何も言わずにわざと失敗するかがりにつき合っていた。
 偶然聞いてしまったかがりは、その場で宇内に謝った。
「堪忍や……堪忍や、宇内はん……」
 当時の自分を思い出して、かがりは目を伏せた。
(あの時に、宇内はんは尊敬する人から、うちの味方になったんやわ……)
 期待に応えたい、と。
 彼のためにも立派な大物忌になろう、と。
 決心した心は、今もかがりを支えている。
「あかんわ……御柱はんには全部見られてしもた。みんなには黙っといてえな」
 赤くなったまま座礼して、かがりがいそいそとその場を出ていくと、コトッと音がして
それまでかがりだけがいた場所に一人の少女が現れた。
「黙っとくわ」
 呟いたのは、あやねである。
 だが、かがりたちが知らないあやねでもある。
 表情にあるのは十一歳らしい幼さと、それに同居する知性。狡猾ささえ感じさせる瞳に
は殿内の闇さえも意味をなさない。
「御柱はん、かがりを守ってくれるん?」
 祭壇の方を見たあやねは、十一歳らしい友人を気遣う言葉を呟き、静かに瞼を下ろした。
 日出づる国でもっとも清らかな場所であり、最も大神に近しい大物忌のみが入ることを
許された場所に立つ少女。
 大物忌ではない地祭の役を担うあやねには、もう一つの顔があった。
 忌巫女。
 神宮は、日出づる国で最も清らかな場所であると同時に、全ての汚れを浄化するために
最も多くの汚れを受け入れた場所でもある。清を外に送り出し、汚を受け入れる。忌巫女
は、その汚れを象徴する役である。
 最も清い場所故に、大物忌だけが立ち入れる。
 最も汚れた場所故に、忌巫女だけが立ち入れる。
 矛盾を抱えたこの場所は、太陽の日蝕現象を象徴している。
 あやねは、独り呟いた。
「いつまでもみんなは一緒にいる……そんなふうに、うちも思ったんよ。けど、うちはそ
ういうの違うと思ってるん。何もしないでそういうふうになるなんて、違うと思ってるん」
 そうして呟きの終わりとともにその場には誰もいなくなる。
 しっかりと見届けた大神様がどう思っているかは、物忌たちにも謎のことである。

                 ※

 あやねが館に戻ると、かがりがいつも通りの注意書きを読んで難しい顔をしていた。一
緒に覗き込んでいたいわねとかずねがあやねに気がついてニッカリと笑う。
「あやね、見て。いつもよりたっぷりと書いてあるんよ」
「明日までの宿題やわ」
「あや、うちは何も言われんかった。かがりちゃんまたわざとやね?」
「な、なんや、そんな昔のこと……うちはそんなことせえへんで!」
「でも、もう時間無いことやし、そういう手を使わんといかんと思うわ。宇内はんの気を
引かんと」
 ふむ、とあやねは注意書きを見て、そして思いついてポンと手を叩き合わせた。そうし
てビシッとかがりに指を突きつけて言った。
「御柱はんに神餞(しんせん)奉る時に、宇内はんの顔に叩きつけるんや!」
「それめっちゃまずいやん!」
 夜まで騒がしい館であった。





                 3


 少女が神々しくさえ見える瞬間がある。
 神前に進み出たかがりが、慎んで神餞を奉る。大物忌父として、他の物忌は上がらない
場所にまで入ることを許された宇内は、かがりの後ろ姿を見て満足した。
 完璧な作法。完璧な大物忌。大物忌として最も高い年齢となったかがりは、昨今まれに
みる優秀な大物忌だった。
 大物忌父として宇内が育て上げた一種の作品、否、弟子と言うのかもしれない。自分の
子供と言うには、やはり年齢的に抵抗がある。
 そして祭祀が終わった時、ホッと息を吐く他の物忌の中、いつもかがりは一番最初に宇
内を見る。
 そうして、少女が神から人となるのだ。
「完璧だ。私にももう何も言うことは無い」
「そうですか? 宇内はんにそう言ってもらうの、初めてですわ」
 本当に驚いたように言うかがりに、宇内はそうだったかと思い、確かに叱ることはなか
ったが褒めたこともなかったな、と頷いた。
 叱られるのが恐いからではなく、しかし、褒められるのが嬉しいから成長したのでもな
い。
 幼かったかがりが成長するのに拠り所にしたのは、何だろう。
 答えを探せば、宇内は簡単に見つけることが出来た。何せ、優秀である。もっとも、頬
を染め、子犬のように宇内につきまとうかがりを見て答えが出ないならばそれも問題なの
だが。
(好きや、好きや、大好きや)
 思いは動作に表れるもの。
 ことに、かがりの一挙手一投足に注意を払う立場の宇内が気づかぬはずがない。
「宇内はん?」
「いや、何でもない。今日はもう戻りなさい」
「今日はお話があるんです。聞いておくれやす」
「何か?」
「宇内はん、都に行くってほんま?」
「その話か……」
 拍子抜けして、だが何が残念なのかわからずに宇内は頷いた。かがりの顔は真剣なもの
で、真面目に応える。
「まだ先のことだが、役を解かれたら都で働いてみようかとね。自分を試してみたい」
「それって、父はんの役は役不足だったってことですか?」
「役不足ということはない。ただ、出世も何もない現状よりも、実際に評価を示され、同
じ力量のある者と競ってみたい」
「はあ……やっぱり宇内はんは偉い人やわ。うちはそういう面倒なの嫌いです」
「嫌いか」
「う、宇内はんが嫌いというわけやあらへんよ!」
 慌てて手まで振って言うかがりに、宇内は残りの時間を考えた。
 大晦日はすぐだ。
 そして、次の年もすぐだ。
 次の年が来れば、かがりは大物忌の役を全うし、宇内の屋敷で半年の勉強の後に実家へ
と帰る。
(だが、そこに何がある?)
 実家に帰れば、大任を果たしたことでかがりは御方と呼ばれ、大切にされるだろう。
 しかし、大物忌であったことを売り込み材料とされて、実家のために身分の高い家に嫁
に出されるのが見えている。
 それは不快である。何せ自分の手で育て上げた弟子だ。物忌たちは、世間の常識という
ものを知らない。解任後の物忌父の屋敷での半年の勉強は、世間というものを教えるため
の時間だ。
(神に奉仕することのみを教えた彼女に、今度は常識を教えるわけか……)
「宇内はん」
 呼ばれ、宇内はハッとした。いつの間にか他の物忌や物忌父はいなくなり、その場には
かがりと宇内だけが残されていた。
「どこか悪いとちゃいますか? 水持ってきます?」
「いい……立ちくらみがしただけだ」
「そうですか」
 心底ホッとしたようにかがりが微笑み、宇内はまたしても悩むのだった。
 既製の、豪族の娘としての生活など、この輝く物忌たちに似合うはずないのに、と。

                 ※

「ええ雰囲気やったわあ」
「そうやね、あのまま宇内はんもふんぎりつければええんよ。誰もろりこんだとか文句言
わへん。ろまんや、ろまん」
「そうや。光君や」
 随分と絵巻物に影響されている少女たちは、神宮内の森でひそひそと話し合っていた。
 彼女たちの意見はまとまっている。提案したのはあやねで、賛成したのはいわねとかず
ねである。
 あやねは息を胸一杯に吸うと、大声で森に向かって叫んだ。
「紫の鬼、いてんか!」
 木々を間を抜ける声だ。
 待つことしばし。
 ザッと木葉を散らし、紫色の髪をしたものが三人の前に現れた。
「呼んだか、じゃじゃ馬が」
 其の姿は人の若者と変わらず。だが人に非ず。天を突くは一本角。地を刺すは覗いた牙。
人を引き裂く爪持ちて、力は剛力百人力。
 神宮に住み着きし鬼、怪力無双、紫色の髪持つ鬼の紫鬼(しき)である。
 単刀直入にあやねは言った。
「かがりちゃんをさらってくれへんか?」
「かがり……なんだ、お前らの朋友ではないか」
「事情があるんよ」
 と、あやねは自分たちの考えを紫鬼に語った。それを聞いた紫鬼はつまらなそうに肩を
すくめ、手であやねたちを払う仕草をした。
「帰れ帰れ。俺にものを頼むんなら酒でも持ってきな」
「代わりを払うわ」
「何だ」
「うちの身体くれてやるって言っているんよ」
「却下。俺にそういう趣味はねえ」
「なんや、ろりこんのくせに」
「十一歳は守備範囲外」
「再来年ならどうや?」
「是非お手伝いさせてください」
 紫鬼は平伏した。
 どうやら、十三、十四なら守備範囲内らしい。しかし情けない構図である。
 いわねがあやねに耳打ちする。
「約束守るんか?」
「嘘や嘘。約束果たす頃、うちら神宮にいないんよ。紫鬼は神宮に縛られとる、出られん
わ」
 悪どい子供もいたものだ。

                 ※

「どこ行っとったの?」
「花摘みや花摘み。冬には冬の花が咲くんよ」
「そうや。かがりちゃんにも花をやるわあ」
「たくさんとってきたんよ」
「わあ」
 三人娘に腕いっぱいの花を見せられ、かがりは顔を輝かせた。だが、すぐに怪訝そうな
顔になる。
「どこにあったん? 冬の花はともかく、これ藤の花やん」
「そうや。藤……鬼の花や」
「?」
「なんでもあらへん。これを枕元に置いて寝るとええ夢が見られるんよ。うちらそのため
に持ってきたん。かがりちゃんもどうや?」
「ええの? ならもらっとくわ。……でも、ほんまにどこにあったん?」
「それは、秘密や」
 人差し指を唇に当てて、あやねは艶美に微笑んだ。
 悪い予感くらいしても良いのだが、悪い予感の欠片もなく受け取ってしまうかがりであ
る。
 そうして次の朝。
 かずねの悲鳴が他の物忌たちを叩き起こした。何事かと集まる子供たちに、かずねは半
泣きの顔であやねの胸に飛び込んだ。
「かがりちゃんがおらへん。藤の……藤の花があるわあ、鬼にさらわれたんやあっ!」
 騒ぎが物忌父たちに知れるには、時間など必要なかった。





                 3


 恋し恋しや彼の人は
 川の向こうにおりやんす
 呼ばれて渡って気づいたら
 そこは根の国死者の国
「ん……」
 静かな歌声に、かがりは瞼を震わせた。随分と身体が痛く、顔をしかめて目を醒ますと、
同時に飛び込んできた光景にかがりは目を見開いた。
「な、なんなんや!?」
「起きたのかよ」
「ろりこん鬼!? 何すんのっ」
「……くびり殺してえ……」
 ほんの少し衝動に身を任せたくなった紫鬼である。
 ともあれ、そこは背の高い木の上であった。神宮の森のこと、そこにある木は凄まじい
樹齢を誇る木ばかりだ。その太い枝の一本に、紫鬼は立ち、幹にかがりは縛り付けられて
いた。
 何か変だ、とかがりは感じた。紫鬼とは何度か会ったことがあるが、鬼の業に捕らわれ
ていない、良く言えば心優しい鬼だったはずなのに、今紫鬼は口調こそ普段と変わらない
が、何か悪い雰囲気をまとっていた。
「どういうことなん?」
「……なんだよ、俺を呼んだのはお前だろうが」
「うち? うちはあやねちゃんみたいなことは出来へんよ」
「藤の花を枕元に置くとは大物忌さまも粋なことをなさる」
 そう言って、紫鬼は唄った。
 藤は鬼花鬼を呼ぶ
 鬼の花嫁鬼花添えて
 鬼を呼ばむは朝夕の
 恨み抱えておるからよ
 鬼の花嫁涙して
 鬼を呼ばむと枕元
 花と添えしは藤の花束
「季節外れの藤の花は、綺麗に咲いていたぜ」
「は、反則やあ!」
「俺は鬼のしきたりに従っただけだぜ。花嫁さんよ」
 ケヒッと紫鬼は牙を見せて笑った。その笑みに冗談抜きのものを感じてかがりは背筋に
冷たいものが走った。
(あかん、いつもの紫鬼やない……)
 この時もう少しよく考えていれば、藤の花を持ってきたのがあやねたちだとかいうこと
まで思い出したのだろうが、残念ながらかがりは紫鬼の雰囲気に飲まれて思考が混乱して
いた。
 鬼眼は判断力を奪う。人を妖す魔性の瞳だ。
 そうして、紫鬼は言った。
「では花嫁よ。しきたりに従って、お前の望みを叶えよう。殺したいのは誰だ。助けたい
のは誰だ。不幸、幸せ全て人の道。鬼はその外から動かすものだ」
「不幸、幸せ……」
「望みがあるだろう。心の中の望みが。小さなそれを大きく膨らまし、俺に言うがいい」
「うちの、望み」
「考えろ。望みを自覚しないで生きるのは悲しいことだ。望みを自覚し、それに向かって
歩むのが人の道ぞ」
「……なんや、鬼が人の道を説くんか?」
「鬼だからだ」
 ケッと紫鬼は腕を組んだ。
「さてと……ようやく来やがったな。いいか、望みを自覚したら言え。俺はそれを叶えよ
う。代償はいただくがな」
「あ、紫鬼、どこ行くんや?」
「下」
 短く応え、紫鬼は高い枝から飛び降りた。
 そのすぐ後に聞こえた声に、かがりの望みが震えた。
「鬼、か」
 大物忌の遙か下で、鬼と大物忌父が対峙した。

                 ※

「これで上手くいくん?」
「本当に紫の鬼が宇内はん殺したらどないするん?」
「大丈夫や。先のことはわからんが、この先のことは宇内はんでも紫鬼でもなく、かがり
ちゃんが握っちょう。だから、大丈夫や」
 言い切るあやねに、いわねとかずねは顔を見合わせ、そして笑った。あやねが言い切る
なら間違いは無いと、信じているのだ。
 大慌てで騒ぐ周りを眺め、似たような顔の三人の物忌は、かがりがいるであろう森の方
角を向いた。
「かがりちゃん……がっつでらぶらぶやで」
 一方、森の中では緊迫した空気が流れていた。
 向き合った鬼に対して、宇内が弓を捨てて刀を構える。かがりの枕元に藤花があり、そ
れに対して物忌三人娘が鬼が鬼がと泣いたので、まさかに備えて用意していた武具である。
「鬼よ、去るがいい」
「去るのはお前だ、片桐の紋」
「鬼がその名を言うか」
「有名だからな」
 ケヒッと牙を見せて笑い、紫鬼は両手を肩の高さで天へ向けた。
「そう言えば、お前が俺の嫁の義理の父親だったか?」
「かがりをどこに連れていった」
「鬼の国よ」
「戯れ言を」
「っと、いきなり斬りかかってくるかよ、普通。俺は嫁を殺したりなんかしてないぜ。い
いのか、居場所がわからなくても」
「探せばいずれ場所は知れる」
「かあ……そりゃそうだが、よ!」
 紫鬼が鋭い爪を手刀として振るい、宇内は表情も変えずにそれを見切ってかわした。紙
一重の回避に、宇内の黒髪がわずかに散った。そこから斜め下から逆袈裟に斬り上がる刀
に、紫鬼は笑みを浮かべたまま後ろに下がった。普通ならば避けることが出来ない間合い
で、鬼は尋常でないバックステップをしてみせたのだ。
 振るわれる刀よりも速い動き。なればこその鬼。
「俺の嫁を何故奪おうとするか、片桐の紋」
「人として、では不足か」
「不足だね。見えるぜ、お前の心の内。何を焦っている。何を恐れている。何に反発する。
何が嫌いだ。自分の目の届かない場所で不幸になるのは良い。だが、自分の前で、自分が
育てた者が不幸になるのは耐えられない。人とは勝手なものだ。だが、それを否定するこ
とはない。だから人は人であり、それをやめれば鬼になる。そういうことだ」
「それだけか」
 多弁な紫鬼と、言葉少ない宇内。対照的な若者二人が向かい合い、刃を交わす。
 刀の刃に爪の刃。
 ひるがえるのは殺刃。
 唄え唄えいくさうた。斬り合うことも喜びよ。それでなければ何故斬り合うか。何故殺
し合うか。理由が無ければそれは業。理由があってもそれは業。いつかは鬼になるしかな
い。否、望んでなるのか。二人は斬り合うが、特に相手が憎いということはないだろう。
ただ紫鬼には目的があり戦い、宇内にも色々とあるので戦っているだけである。
 一生懸命の緊張感の中に、同時に白けた空気がある。
 宇内は現状に真剣になりきれない自分に苦笑を浮かべた。
「この時期に鬼とは、随分な偶然だ」
「鬼のつけ入る隙があったからな」
「隙か」
「そう、スキだ。好きや恋しやと犬が鳴く時鬼は現れ人をさらう。悩みを吐けよ。思いを
吐けよ。受け止めようぞ。されば我は鬼なり」
 ガッと紫鬼が獣声を発し、木へと追い詰めた宇内に爪を振るった。宇内はそれをかがん
で避けると、爪は木を深く抉った。当たれば致命傷だ。
「人には鬼は殺せない。それは鬼が人の業だからよ。俺は今お前の業。殺せないぜ」
「ならば、己の業を斬り捨てるのみ」
「自分の業が見えるか」
「見せたのだろう」
「その通り」
 ケヒヒッと紫鬼は笑った。
「悩め悩め人間め。大物忌へ情が移ったのは良い。だが、その情に対して大物忌が恋慕を
返したのが始まりよ。情は恋慕に打たれ飲み込まれる。弾くには情は脆いものよ」
「…………」
「相手を想おうが想うまいが、情を抱いた時点でお前は巻き込まれた。情はひたむきな想
いに恋慕に変わる。予言しよう。お前は大物忌と共にいれば互いに不幸になる。一緒にい
ては幸せにすることも出来ない未来が待っているのよ。そう──」
 と鬼は言った。
「お前はその程度の男だ。鬼の予言は外れた記録が無いぜ」
「……良かろう」
 呟き、宇内は刀を収めた。
「ならば、私はその予言をくつがえした、初めての男になろう」
「ケヒヒッ。楽しみにしているぞ」
 それを最後に、紫鬼は森の中に駆けて行った。見送った宇内は、小さく息を吐いて歩き
出そうとし、その声に気づいた。
「宇内は〜ん、助けてやあ!」
「ふう」
 今度は大きく息を吐き、無愛想な大物忌父は木登りの準備を始めた。
 何だか、物事が解決したのかうやむやになったのか、よくわからない事件の幕引きであ
った。

                 ※

 そしてしばらくの後、同世代の四人の物忌はお役を御免となった。
 かがり、あやね、いわね、かずねの四人である。
 かがりは屋敷を都に移すという宇内に同行して一般教養を学ぶこととなった。異例のこ
とであるが、かがりの親が是非にと希望したのでそれは許されることとなった。もちろん、
かがりの両親としては都ならば何かの偶然でかがりが殿上人の目にとまるかもしれない、
という思惑もある。が、それはどうでも良いことだ。
 問題はあやね、いわね、かずねの三人で、お役御免になると同時にこの三人は行方をく
らました。それぞれの物忌父の屋敷へと向かう最中、鬼にさらわれてしまったのである。
 そうして、その三人だ。
「で、俺にこんなことまでさせてどういうことだ」
 木の幹に背中を預けた紫鬼は、似たような顔立ちの三人の元物忌たちを見た。
 あやねは子供らしからぬ、魔性の笑みを浮かべて言うのだった。
「紫の鬼、神宮から出てみたいと思わん?」
「何?」
「うちなら、出来るんよ。もちろん、うちらにつき合ってくれたら代償も払うわあ」
「なるほど……最初からそのつもりだったな、このガキ。考えてみりゃ、もうお前らは神
宮に戻ってこない……任を果たした物忌が神宮に入ることは許されないからな」
「知っておったくせに。それで言うことを聞いたんやから、やっぱり子供には甘いんやな
あ。ろりこんや」
「ろりこんや」
「ろりこんや」
「ぶっ殺してえ……っ」
 首をきゅっとやりたくなるが、神宮で血を流すわけにもいかない。忍耐力ばかり旺盛に
なった紫鬼である。
 あやねはにっこりと、日蝕の太陽のような妖しい笑みで髪を掻き上げた。
「うちらを助けてくれたら、この前の代償ももちろん払うわあ」
「ふざけるな。俺は決めた。これからは鬼の誇りに生きる。俺は一生をこの神宮の森でだ
な──」
「うちだけでなく、うちら三人の身体でどうや」
「お供させてください、御主人様」
 安っぽい誇りである。
 かくして、三人娘と鬼も神宮を出る。それは何かの運命か。
 全ての道を操った忌巫女は、紫色の髪を持つ鬼に目を細めて、小さく呟くのだった。
「恋し恋しや藤の花……もしうちの枕元に藤の花があったら、さらってくれるん?」
「何か言ったか?」
「ろりこんは扱いやすくてええなあ、って言ったんや」
「なめんなよ……」
「舐めて欲しいんか?」
「あや、あやね」
「いややわあ、恥ずかしい」
「さ、行こか。かがりちゃんが京で待っとるわ」
 クスリと笑い、あやねは頬を押さえて驚いた顔をしている鬼の手を引っ張った。
 紫鬼の扱いを心得ているからの行動か、それとも心情がそうさせたのかは、永遠の謎で
ある。


                                終

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