サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS 「真夏の夜に逢いましょう」 第8幕 「夏の終わり → 生徒四人」 帝国領に属する工船都市パスティス。そこに存在する帝国軍学校に程近いとある喫茶店 に、テーブルに顎を乗せて脱力している四人の若者たちがいた。 「あ〜……」 「あ〜……」 「あ〜……」 「あ〜……」 長かった夏季休暇の終わりを翌日に控え、喫茶店の他の席では課題の終わっていない生 徒たちが私服でお互いの分担を写し合っている。そのような修羅場になっている店内で見 事な『駄目人間』っぷりを見せている四人こそ、何を隠そう最高学年でほぼ同点で首席卒 業を争う者たちである。 時計回りに、ベルフラウ、アリーゼ、ナップ、ウィルの順番で、丸いテーブルに突っ伏 している。その身体は脱力し切り、だらしない顔には『遊び疲れちゃった』と書かれてい ては、周囲の学生たちだって殺意を抱こうものである。しかも、この四人は遊び呆ける傍 らでしっかり協力して課題を終わらせており、その余裕っぷりがさらに腹立たしい。 さて、ベルフラウは呟いた。 「遊んでる最中は楽しかったけど……毎日お祭りってのも考えものよね」 ウィルが頷く。 「うん……なんだか緊張の糸が切れたような……見栄張る相手がいなくなると、楽すぎて 困るね」 アリーゼが力ない笑みを浮かべる。 「あはは……二人とも、あっちにいる間ずっと先生を探していたよね」 ナップが呻く。 「つーか、俺、先生に稽古つけてもらった筋肉痛で動けねぇよ……」 等々。 テーブルの上、顔を付き合わせた姿で無気力に言い合う。周囲の紙の上をペンが滑る音 の方が大きく聞こえるような元気の無さだ。 夏季休暇を思い出深い忘れられた島で過ごすことにした四人を待っていたのは、島を挙 げての大歓迎だった。毎日がお祭りのように催しで埋め尽くされ、それでなくともベルフ ラウやウィルは自分の恋の相手の様子を伺うのに必死で、気疲れもしたが充実した休暇を 過ごすことができた。それこそ体力の限界まで遊びつくした満足感がある。 それだけでも、駄目人間誕生の素養はあっただろう。 だがおまけに、ナップの持ち船で島を出発してから天候が急変し、嵐の中を四人協力し て乗り切るという筆舌に尽くせぬ苦難を乗り越え、大幅に予定を遅らせてパスティスに戻 ってきた来た時にはすでに新学期の始業日が二日後に迫っていては、その誕生は確定であ る。 結果、体力の回復にいそしむ四人の駄目人間がここにいるのである。 ともあれ、飲み物でも頼もうか、とウィルが全員に視線で問いかける。全員が同意を示 し、一斉にへろへろと片手を上げる。 「あ〜……」 「あ〜……」 「あ〜……」 「あ〜……」 ウェイターを呼び止める大きな声も出ない。それでもよく出来たウェイターはみなまで 言うなとオーケーサインを出し、それぞれの好みの飲み物を運んできてくれる。その辺り、 常連は得だ。 なんとか頭を起こしてアイスティーのストローをくわえながら、ベルフラウはぼやく。 「この調子じゃ毎日先生の相手をしてたら身体がもたないわね……」 それは誰にも聞こえないように言ったつもりだったのだろうが、ナップとウィルが同時 に飲んでいたものを吹き出した。わっ、とアリーゼがのけぞる。 「ど、どうしたの?」 「げほ……え、エロっ!」 咳き込みながらナップが叫び、「は?」とベルフラウは呆けた。同じように呆けたアリ ーゼと顔を見合わせ、次にウィルを見ると、少年は顔を真っ赤にしてジュースを吹き出し た口を押さえていた。 しばし思考。 少女たちは、赤面して立ち上がった。 「そういう意味じゃないわよっ!」 「ナップくん、教育的指導!」 「俺だけか? 俺だけか!?」 「ぼ、僕は……その……ご、ごめん!」 カーッと耳まで赤くしてウィルは両手で顔を覆ってしまった。沈着冷静な彼にしては珍 しいそれに、相当凄いことを想像されたのではとベルフラウは恥ずかしくて死にそうにな った。 「へ、変なこと考えないでちょうだい。アリーゼも何赤くなってるの〜!」 「ひゃあ〜、ら、らっれ〜!」 ぐに〜、と両頬を引っ張られてアリーゼが悲鳴を上げる。よく伸びる頬をベルフラウが 攻めていると、ナップが親指を立てて言う。 「おっとな〜――ぶっ!?」 茶化した顔面に、喫茶店のメニューが叩きつけられる。だがそれでもめげずに、ナップ はウィルの肩に腕を回して囁いた。 「どうやら本気で『まだ』みたいだぜ? そこのところどうだ、先輩として」 「ど、どうだって言われても」 「先輩?」 何その呼び方、と少女たちは怪訝そうな顔をする。 そして。 「え〜!?」 大声を上げて、ベルフラウとアリーゼは寄り添ってウィルから離れた。その反応に、ウ ィルは泡を食って叫ぶ。 「な……!? ご、誤解してる。君たちは何か誤解してる! 僕は別にまだ、その……」 言いよどむ。必死に身振り手振りまで使って説明しようとするが、どうにも言葉が出て こない。ええい、とウィルはかぶれかぶれで言った。 「だから、まだ女性経験は無いんだ!」 ――静寂が店内を覆い尽くした。 気がつけば、すでに誰もペンを持ってはいなかった。 全ての視線がウィルを見ていた。 その静寂を、ウェイターが破る。彼は、ウィルの肩を優しくポンと叩いた後、テーブル から伝票を拾って去っていく。 ナップが、ウィルに優しく微笑んだ。 「奢りだってよ」 ウィルは、真っ白になってテーブルに突っ伏した。燃え尽きたようだ。 「え、ええと……ね、ねえ、ベルフラウ。なんて言ってあげたらいいのかな?」 「さ、さあ……」 女の子たちは、その凄まじい結末に戦慄を覚えながら相談する。 結論。二人して、後ろから肩に手を置いて言う。 「気にしないで、あなたは一人じゃないわ」 「ナップくんだって一緒だから」 「待てこらぁ!」 少年が叫ぶ。 すっかり夏休みボケを吹き飛ばし、四人はそのまま口論へと突入した。周囲の皆は、相 変わらず賑やかな奴らだと、肩をすくめて自分たちの課題へと戻る。 「毎日お祭りみたいな奴らだよな……」 誰かが呟いた言葉こそ、ベルフラウたちの気づかない真実なのかもしれなかった。 とにかく、夏は、これで終わりである。 少し成長したようで、だけれどあまり変わらない彼らの学園生活は、まだもう少しだけ 続くようであった。 終