戻る


サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS
「真夏の夜に逢いましょう」

			   第7幕
    「真夏の夜のプレゼント → ベルフラウ & レックス」





 例え夜の闇だろうと、その地上の火を消すことは適わないだろう。
 そう思わせる巨大な篝火が焚かれたユクレス村の広場を、ベルフラウは一人歩いていた。
 生徒たちの休暇最終日に催された大宴会はこれ以上ない盛り上がりを見せ、今は気の会
う者同士が小さな円を幾つも作って談笑し、食事を楽しんでいる。
 とある円では、鬼妖界の鬼忍の棟梁と、幻獣界の白虎の獣人が長年の友のように酒を酌
み交わしていた。
 とある円では、霊界の少女と、機界の機械人が仲睦まじい姉妹のように寄り添って語り
合っていた。
 名も無き世界の老人が鬼の少年のいたずらを咎めている円もあれば、海賊の船長がはぐ
れ召喚獣の子供たちに海原の大冒険を語っている円もある。
 全員が直接地面に腰を下ろし、上座も下座もない円になってその夜の宴会を楽しんでい
た。中央にあるのは、巨大な焚き火。雲一つない夜空には大河のような星の集まりが輝き、
天然の装飾してこの場を飾っている。
 ドン、と不意に空気を震わせる太鼓の音がした。ドン、ともう一回その音が繰り返され
た。連続した音は、続いて小型の太鼓の硬い音を迎え入れ、次第に笛や鈴などの音が重な
って、音から曲へとその形を変えていった。
 幻獣界の者たちが奏でる明るい曲の彩りに、その場の皆が同時に杯を掲げる。
 乾杯、というのは何度目になるかわからない祝杯の声。
 乾杯するのは何にでも良い。ただ何かを祝い、おめでとうと言いたい、そんな気分。
 鬼の姫が扇子を開いて立ち上がり、篝火の前に進み出た。待ってましたと手拍子を取れ
ば、着物の裾をひらめかせて鬼人の舞が興じられる。幻獣界の軽快な音楽に合わせた舞は、
普段のゆったりとしたものとは違って冗談めかした激しいもの。彼女が踊りながらどこか
の円の近くを通る度に、新しい誰かがその舞に引きずりこまれて踊りだす。
 面倒くさいと言いながら、だけれど笑いを浮かべて立ち上がるユクレス村の長。
 そういう踊りはパターンに無いと言いながら、それなりに踊ってみせる看護医療用機械
人形。
 遠慮しながらも赤毛の美女に手を引かれて、仕方なさそうにその輪に加わる帝国軍の女
士官。
 見上げれば、ルシャナの花の妖精と共に手を取り合って踊る霊界と鬼妖界の小さな護衛
獣たち。
 下を見れば、並んで踊る機界と幻獣界の小さな護衛獣。
 皆が思い思いに、踊りだす。一つとして同じ踊りはなく、本当に好き勝手に、合わせる
気遣いの一つもなく踊りだす。
 かつて暗殺を生業としていた美貌の海賊が、見事に音を汲み取ったステップをしてみせ
る横で、その幼馴染であるかつて無色の派閥に属していた召喚師が、生真面目でぎこちな
い古風の踊りを披露した。
 海賊の船長の妹分はとにかく音楽に身体を任せる元気はつらつとした大きな動きをし、
海賊の大敵のはずの帝国軍の巨漢の兵士は、戸惑いながら周りにぶつからないように妙に
縮こまった踊りをした。
 霊界の霊魂だけの少女は触れることの出来る天使の青年にエスコートされて踊り、鬼の
少年と犬の獣人の少年は身体をぶつけ合うくらいにやんちゃな踊りで楽しんだ。
 ベルフラウの右腕が取られたと思ったら、それは親友の少女。左腕が取られたと思った
ら、それは信頼する少年。後ろから頭を掴まれたと思ったら、それは悪友の少年だった。
 踊ろう!
 簡潔なひとことで、少女も宴の輪に入る。
 まず最初に相手を務めたのは、いつも落ち着いた頼りになる少年。少女に合わせた上流
階級の踊りもそつなくこなす、器用な友人。
 楽しかったね。
 そう言われて、ベルフラウは頷いた。本当に楽しい休暇だった。
 音楽一巡で、次の相手へ。彼女の手を取ったのは、無類の親友。踊りの練習は二人で積
んだ、息の合った一番のパートナー。
 たくさん思い出ができたね。
 そう言われて、ベルフラウは頷いた。本当にたくさんの思い出ができた。
 音楽が一巡し、次の相手へ。今度の相手は、喧嘩ばかりする少年。だけど嫌いじゃない、
二人で踊れば規則破りのステップも楽しくなる、他の二人と同じ大切な友達。
 来て良かっただろ。
 そう言われて、ベルフラウは頷いた。本当に来て良かった。
 友人たちとの踊りが終わり、ベルフラウは次の相手に流れ着く。それは周りから引っ張
りだこになっていた人気の青年。周囲を照らす、篝火と同じ色の髪をした人。
 あら、私のことなんてすっかり忘れてるのかと思いましたわ。
 彼が忙しく立ち回っていたのを知りながら意地悪に言ってみれば、平謝り。謝る必要な
どないと教えるほど優しくはない少女は、だから要求した。
 この一曲の間は、私のことだけ考えていて。
 了承は、真夏の夜のプレゼント。みんなの先生の独占は、これ以上ない夢のこと。
 踊りましょう!
 彼の手を取り、ベルフラウは踊りだす。周りの皆のように、無邪気に、子供のように声
を上げて笑ってステップを踏む。クルリと回れば、星空も回る。
 楽しいとベルフラウは思った。
 良い思い出がたくさん出来たと思った。
 本当に来て良かったと思った。
 音楽は続き、そしていつかは終わる。
 だけれど、終わらない踊りの中に自分はいたいとベルフラウは思った。
 宴が終わり、明日には島を出る。
 しかし、自分はいつかまた戻ってくる。大好きな青年と、同じくらい大好きなこの奇跡
のような四界の入り混じった平和の島へ、必ず自分は戻ってくる。
 いつも宴の中にいるために。いつも踊りの中にいるために。
 ――ねえ、先生。
 踊りの最中、ベルフラウは微笑んだ。
 この島って、終わらないお祭りのようなところね。
 音楽が鳴る。踊りが続く。この世界に召喚されなければ出会うはずがなかった者たちは、
異界の手を取って夜通し歌い騒ぐ。
 背伸びした口接けも、夢よりも甘い味がした。


                                   続く





戻る