サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS 「真夏の夜に逢いましょう」 第六幕 -Cパート 「アリーゼ・アタック → アリーゼ & ベルフラウ」 さて、今年の夏も終わりに近づき、みんなそれぞれ何かしらの収穫があった模様。 ベルフラウは言うまでもなく、ウィルくんもアティ先生の所に足しげく通ってがんばっ ている。ナップくんはこの機会にとレックス先生やキュウマさんに稽古をつけてもらって、 毎日が充実しているみたい。 わたしはと言うと、かつて執筆していた島の伝記の再編にいそしんでいる。六年前に体 験した戦いを記したそれは、鮮明に記憶していたつもりでも細部の描写にあいまいな箇所 が多かったので、毎日少しずつ思い出の場所を巡っては書き直している。 この伝記の描写は、精細に越したことはない。何故なら、これはこの島に住む子供たち にこそ読んでもらうつもりのものだから。子供たちがお話を聞きながら、あそこのことだ、 と物語の中と自分たちの島を重ねられないようでは、この伝記には意味が無い。 島で起こった悲しいことを、強大な力と傲慢が生み出してしまったことを、この島の子 供たちに少しでも記憶に留めてもらいたかった。二度と同じことが起こらないように、心 に刻んで欲しい。そしてもし起こってしまった時でも、勇気をもってそれに立ち向かえば、 どのような理不尽な力にだって打ち勝つことが出来るのだと、知っておいて欲しい。 伝記の主人公は、魔剣に導かれて島にやってきた家庭教師。ヒロインは、彼の教え子。 実際の体験と少し違うのは、家庭教師も生徒もそれぞれ一人だけということ。先生が二 人もいて生徒が四人だと、子供たちが混乱するかもしれないので、そこは割愛。 先生の名前は、レックス。 生徒の名前は、アリーゼ。 ――だから、この伝記はベルフラウに見せたことはない。 忘れられた島での休暇の終わりが近づき、パスティスへ向けての出港が二日後に迫った 夜。少年少女たちは、寝泊りする鬼の御殿の主であるミスミのはからいで、ひとときの手 持ち花火の遊びに興じていた。 色とりどりの浴衣を着て中庭で遊ぶ若者たちを見守るのは、縁側に腰を下ろしたレック スたち教師陣と、各護人たちだ。彼らはゲンジの入れた茶を啜っては「あ〜、美味しい」 などと口にしており、老成していることこの上ない。 「ジジむせぇな〜」 と、ナップがぼやき、スバルと目配せしてから素早く手首のスナップで十を越える爆竹 の束を投げつける。さすがにそれにはレックスたちも慌て、逃げ惑う。 「う、うわわわ!? や、やったなぁ!」 「へへ。悔しかったらこっちきな〜」 「オイラたちに勝てるならな〜」 挑発二連発。それに乗ったのはレックスとアティ、それからファリエルの三人で、他の 面々は、 「子供は元気が一番じゃな」 「そうね。もっとも、元気すぎるのも考えものだけど」 「……子供と一緒に遊んでいる馬鹿も二人いるがな」 「ヤッファ殿は行かれないのですか?」 「かったりぃ」 順番に、ミスミ、アルディラ、アズリア、キュウマ、ヤッファのコメントだ。 パチパチと火の粉を弾けさせながら、木の枝のように光が広がる棒花火を地面に向けて 持って眺めていたアリーゼは、そんな騒動上等な男の子たちの姿に苦笑するしかなかった。 「元気ねぇ……」 「うん。先生まで一緒に、子供みたい」 呆れるベルフラウに、アリーゼは同意する。立派な大人であるレックスとアティまで、 ロケット花火を手に打ち合いに参戦している。 それを横目にしつつ、自分たちは女の子同士静かに花火を楽しもう、などと思っていた ところ、 「危ない!」 「え? ――きゃっ!?」 流れ弾が、光の軌跡を残して飛んできた。バチンッと額に一撃受けたアリーゼは、中腰 だったためにバランスを崩して後ろに尻餅をつく。 慌てたのはその流れ弾を飛ばした張本人で、泡を食ったように駆け寄ってきた。 「ア、アリーゼ、大丈夫かい!?」 「せ、先生……はい、大丈夫ですよ」 焦りまくった表情の赤毛の青年に、アリーゼは少しヒリヒリする程度の額を手でさすり、 安心させるためにもう一度言う。 「このくらいなんともないですから。大丈夫です」 「ごめん。立てる?」 はい、と頷いて、アリーゼは差し出されたレックスの手を取った。引き起こされると、 それでおしまいかと思ったら、 「少し跡になってるね。フレイズに頼んで、治してもらおうか?」 「先生、このくらいで……小さな子じゃないんですから」 額に指を置かれ、ドキリとしながらアリーゼは遠慮した。そう、まるで赤ん坊扱いだ。 隣に立つベルフラウと、少し視線を合わせてクスリと笑い合う。 (先生にとってはまだまだわたしは小さな生徒のままなんだろうなあ) 悔しくも思うが、それでいいのだろう、と思う。 それなら諦めはつくのだし、と。 だが、アリーゼにも予期せぬ不意打ちは直後に来た。 「子供扱いじゃないよ。綺麗な顔なのに、跡が残ったらいけないだろ?」 「っ!」 それは、彼にとっては何気ないひとことだったのだろう。 だけれど、アリーゼにとっては、ボッと火の出るように赤くなったアリーゼの顔を見て しまったベルフラウにとっては。 ――何気ないでは、すまないことだった。 アリーゼという名前の生徒が登場する伝記は、いつかは読まれる時限爆弾。 それは先生と約束したこと。 わたしの書いた伝記を、青空学校の教材として使ってくれるというのは、幼い頃に交わ した大切な約束。 だから、いつかベルフラウもそれを見るに違いない。 だって、ベルフラウは先生とずっと一緒にいるんだから――。 その夜、アリーゼは伝記の再編を続ける気力も無く、一人縁側に腰掛けて中庭の闇を見 つめていた。膝の上には、書きかけの伝記。それから、さらにその上にキユピー。 隣の部屋で休むナップとウィルは廊下を通る際に何も言わなかったし、鬼の御殿を去っ ていくアティはアリーゼの頬にキスをしてくれた。ゲンジはお茶を急須ごと置いていって くれたし、ミスミはとても美味しいお饅頭を山ほど用意してくれた。 (みんな優しいなあ……) 中でも、アズリアの「後悔だけはするなよ」という言葉は、ずっしりと重い。優しいだ けに、とても重い。 「はあ……」 ため息をついて、アリーゼは思う。 (答えは出てるから心配しないでって言える雰囲気じゃなかった……六年間しっかり考え てみましたって、言った方が良かったかな?) あれは不意打ちだっただけだ。 諦めると想いを捨てるとはまた違うから、わたしがときめく分には別にいいんだもん、 とアリーゼは膝の上で仰向けに眠るキユピーのやわらかな腹を指でつつく。 「キュ〜……」 風船の空気が漏れるような声で、キユピーが寝息を立てる。クスリと含み笑いすると、 背中側で障子戸が開く音がした。 ハッとして、振り返ろうとする。 「ベルフラウ?」 「そのまま」 と、ベルフラウはアリーゼを制止した。それに従っていると、すぐに背中に温かいもの が触れた。それが親友の背中だと気づけないアリーゼではない。 二人、夜の廊下で背中合わせ。 先に切り出したのは、ベルフラウだった。 「寝ないの?」 「うん……ちょっと眠れないかも」 「そう」 「うん」 途切れて、今度はアリーゼが言う。 「ベルフラウは、寝ないの?」 「一人じゃ、眠れないわよ」 「そうなんだ」 「ええ」 アリーゼが見ているのは、夜の空。 ベルフラウが見ているのは、御殿の天井。 アリーゼは瞼を下ろした。ベルフラウも、同じようにした。 そうすると、二人の視界は同じものになる。 同じだけれど、違うものが見える。 アリーゼは、尋ねる。 「何か見える?」 「アリーゼが見えるけど?」 「うん。ベルフラウが見える」 あはは、とアリーゼは笑った。ふふ、とベルフラウも笑う。 「アリーゼ、お煎餅食べる? ミスミ様がたくさんくれたの。他にも、アルディラお姉さ まが飴とか、ヤッファさんなんてお芋よ?」 「わたしはお饅頭とかお茶とか……子供扱い?」 「子供扱いよねえ」 背中合わせから、ほんの少し後ろに傾けてみれば、お互いの頭がコツンと当たる。 アリーゼは、膝の上の伝記の本を意識した。なんとなく持ってきてしまっていたが、こ れを予感していたのかもしれない。 「ねえ、ベルフラウ。わたしの書いてる伝記、読んでくれる?」 「伝記……ああ、楽しみにしてたのよ」 自然な誘いに、自然な受け答え。 後ろ手に渡すのも自然ならば、ベルフラウがその頁をめくり始める音も、自然だった。 しばし、会話の無い時間が過ぎる。 最後の頁を読み終わった後、ベルフラウは満足げに頷いた。 「いい出来だわ。あの戦いのことを、本当によく書けてる。やっぱりアリーゼ物書きの才 能あるわよ」 「うん……ありがとう」 噛み締めるように、アリーゼは礼を口にした。 そして、微笑みを瞼の裏の親友に向けて言う。 「大好き」 一拍。 二拍。 三拍の間を置いて、言葉が夜の世界に広がっていく。 それだけの時間を待ってから、応えは返った。 「私もよ」 みんな心配性だ。 わたしたちには、多くの言葉はいらないのだから。 (う〜ん) 久しぶりにベルフラウと一つの布団に入り、アリーゼは手を握り合った少女が安らかな 寝顔を見せるのを待ってから呟く。 「別に、身を引いたわけじゃないから」 麗しい友情もあるのだけれど、うふふ、とアリーゼはちょっと意地悪な笑みも浮かべて みせる。 「先生だけ、ベルフラウだけじゃ、片方だけでしょ? だから、二人の二番になってみた いの」 二兎を追って両方を逃す愚はおかさない。 だって。 「先生とベルフラウ、両方が大好きなんだもの」 『夫婦』になった二人の『恋人』なら、別に構わないでしょ? と。 なんだか結構凄いことを計画している少女が一人いるのである。 ちなみに、伝記はベルフラウではなく、先生への爆弾であったりする。 将来、自分たちが恋人になる伝記を見せられた彼がどういう顔をするか、アリーゼがど れだけ楽しみにしているかは――秘密である。 続く