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サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS
「真夏の夜に逢いましょう」

			第五幕 -Bパート
  「温泉、男の甲斐性、湯煙の果て → ナップ & ウィル」




「しかし、温泉ってのはいいもんだな。入るのは二回目だけどよ」
 視界を包みこむ薄い湯煙の中、ナップはそう言って自分の浸かる温水を掌ですくい上げ
た。硫黄の香りと潮の香りの入り混じった湯をたたえるのは、忘れられた島の海岸線、入
り江状になったとある一角『イスアドラの温海』だ。
 海底火山の影響で海水が温められたそこは、一年を通して暖かい気温が保たれ、周囲に
は色とりどりの花畑が広がっている。入り江になっているために岩礁が多く、温水で生き
る熱帯魚たちが多数生息する漁礁でもあった。
「この辺りの湯加減がちょうどいいね」
「おお。極楽極楽ってやつだ」
 一緒に大きめの岩に背中を預け、ナップとウィルは湯煙にけぶる夜空を見上げていた。
 温海はその性質上場所によって水温が随分と違い、ナップとウィルがしばらく歩いて見
つけた場所は、しゃがんでようやく肩まで湯に浸かれる深さの場所だった。
 岩がちな場所で、周囲にはいくつもの背の高い岩があり、湯煙もあって少し遠くは見渡
すことが出来ない。自然と眺めるのは夜空に限定され、二人は昼間の疲れを湯に溶かしな
がら笑い合った。
「へへ、どうだ。来て良かっただろ」
「うん。誘ってくれて感謝してるよ」
 パシャ、と湯で顔を洗い、ウィルは濡れた前髪を掻き上げた。軍学校でも好成績を誇る
少年は、服の上から見るよりもずっと鍛えられた身体つきをしている。直接的な武力より
も召喚術が得意とは言うが、鋼鉄の剣を難なく操る腕には目に見えて太い筋肉が纏わり、
胸板の厚さも彼がただの学問の徒ではないことを示している。
 一方、ナップの方は傍目にもわかる戦士の身体つきだ。全体的にウィルより一回り多く
筋肉がついており、肩から腹へと見事な逆三角形を作っている。海で遊んだためか良く日
焼けした肌は筋肉の描く線を際立て、少年と青年の境にいるナップの精悍さを引き立てて
いた。
 湯に当てられ、二人の身体にうっすらと浮かび上がる細かな幾つもの白い筋は、剣の練
習や試合の中で受けた傷の跡だ。それを厳しい訓練を乗り越えてきた誇らしいものと思う
二人は、恥らって隠すことは無い。強くなるための過程で刻み込まれた、二人にとっては
大切な傷だった。
「……うん、本当に来て良かった」
 満天の星を見上げ、ウィルは繰り返した。チラリとナップが横顔を見れば、ちょうどウ
ィルも彼の方を向いたところだった。
 思わずドキリとするナップに、ウィルは目を細めて笑って言う。
「久しぶりに島のみんなにも会えたし、何よりアティ先生にも会えた。感謝してるよ」
「な、なんだよ、気持ち悪ぃなあ」
 何故か気恥ずかしく、ナップは少し湯をすくってウィルの顔にかけてやる。すると、ウ
ィルも湯をかけ返し、二人はぷっと吹き出して再び空を見上げた。
「あ〜、こうしてると、本当に思うよな」
「世界は綺麗だ、かな?」
「おお」
 以心伝心。多くを語る必要も無いウィルとの会話に、ナップは伸ばした足を交互に動か
して湯を蹴り上げた。泳ぐように足を動かして湯を掻き混ぜながら、ナップは唇をすぼめ
て口笛を吹く。
 それは、古く王国時代からある、誰もが知っている夜空の歌。星々の天蓋の向こうに想
いを巡らせる歌。
 承知したウィルが低い声で歌詞を合わせ、しばし二人は聴者のいないコンサートを楽し
んだ。夏の空は高く、そこにだけ捧げられる歌が吸い込まれていく。
 そんな時だった。
「お?」
 聴こえてきたものに、ナップは思わず口笛を止めた。それは、ウィルのようにナップの
口笛に合わせる、楽しげな少女たちの歌。聞き覚えのあるその声に、少年たちは顔を見合
わせて、次に背後の背の高い岩を振り返った。
 そういや、とナップは呟く。
「あいつらも、風呂行くとか言ってたっけか」
「そうだね……──ナァァーップ!」
 おもむろに人の背丈の二倍はある岩に手をかけた少年に、ウィルは制止をかける。慌て
て口の前に人差し指を立てるナップに、冷たい一瞥。
「短絡的だよ」
「論理的だろ」
 いいか、とナップはザバンと立ち上がって両手を広げた。彼の頭の上から落ちた白い手
ぬぐいが、湯の上に落ちて浮かんだ。
「男」
 と、ナップは自分とウィルを指差す。
「風呂」
 と、自分たちの周囲を見渡す。
「壁」
 と、巨大な岩に手をつく。
「そして女」
 ぐっと拳を握り締める。
「行くしかないだろ!?」
「いいから腰にタオルくらい巻いてくれないかな……」
 顔の前に突き出されたものに、ウィルはカクンと頭を垂らして指で眉間を揉みほぐした。
頭が痛い。
「つまり、君は向こうにいるだろうベルフラウとアリーゼの裸を覗こうと?」
「うん」
「それは犯罪だ」
 いそいそと手ぬぐいを腰に巻きつけるナップに、冷たいひとこと。
 が。
「アティ先生がいるかもしれないぜ?」
「…………」
 沈黙。
 二人は、無言で見つめあい、そして。
 ──がっちりと、握手した。
「確か、覗きは男の甲斐性と本にも載っていたような気がする」
「行くぜ、親友」
 一応大義名分を掲げるウィルをよそに、ナップはわくわく顔で再び岩に手をついた。し
かし、今度もその手をウィルが払う。
 ナップは、怪訝そうに相棒を見る。
「なんだよ」
「先に行かないで欲しい。不快なものが見える」
 別に止める気は無いらしい。
 ともあれ、二人は同時に岩を登ることにした。水に削られて掴む場所に乏しい岩だった
が、軍学校の訓練を乗り越えてきた二人にはたやすい障害だ。素っ裸の男二人が夜空の下
で巨岩に張り付いている姿は滑稽だが、それも彼らにとっては男の甲斐性である。
「うわっ」
 途中、ナップが手を滑らしたが、危うくウィルがその手を掴む。サンキュ、と言うナッ
プにウィルは、
「下から覗かれるのだけは嫌だ」
「俺だって嫌だ」
 男の友情を深めていた。
 さて、そうして苦難を乗り越えて岩山の頂上に到達した二人が、ついに向かい側を見下
ろそうとした時。
「キュ!?」
「へ?」
「あれ?」
 岩山の上には、バスタオルで身体をくるりと巻いたキユピーが座っていた。湯に当たっ
て涼んでいたらしい護衛獣は、少年二人の姿に驚くと、すぐに顔を真っ赤にして体当たり
するように二人を突き飛ばした。
「って、うあああああ!?」
 悲鳴を上げて落ちて行くナップとウィルの落下音は、バシャーンという非常にわかりや
すいものだ。


「……馬鹿」
 アリーゼと一緒に静かに湯に浸かっていたベルフラウは、そう二人のことを評価するの
であった。


                                   続く




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