サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS 「真夏の夜に逢いましょう」 第五幕 -Aパート 「私(俺)のベルフラウは世界一 → ナップ & アリーゼ」 忘れられた島の南端に広がる浜辺。夏の海水浴の場所として島の住人が集った憩いの場 所で、今一つの戦いが行なわれようとしていた。 「へへ。覚悟はいいか、アリーゼ?」 「こちらも準備は出来ました」 陽光に焼かれた熱砂の上、対峙するのは二人の男女――木の棒を片手で剣のように構え たナップとアリーゼだった。二人とも水着で、脇には瑞々しいスイカを抱えており、周囲 にはベルフラウやウィルをはじめ、多くの島の住人が見物人として集まっていた。 二人の準備が整ったのを見てとり、間に立っていたレックスが手を振り上げる。一瞬の 空白の時間の後に振り下ろされると、ナップたちは同時にその場の地面を蹴って動き出し た。 「さあ始まりました砂浜のスイカ割り真剣一本勝負。実況は私こと看護医療用機械人形の クノン。解説は抜剣者アティ様にお越しいただいております。――アティ様」 「はい。皆さんこんにちわ、アティです。そもそも、この試合は生徒四人がどのくらい成 長したかレックスと私が見てみたいと言ったことが発端なんです。なのに、ベルフラウち ゃんが自分がレックスに勝てたらデートして欲しいって言い出したから、少しややこしい ことになっちゃったんですね。それじゃあってアリーゼちゃんがベルフラウちゃんに勝て たらお買い物に付き合って欲しいって言って、自分が勝つに決まってるって馬鹿にしたナ ップくんと口論。結果、二人の一騎打ちという形でまず試合が始められることになったん です」 「長い解説ありがとうございました。では、試合の模様をお伝えしたいと思います」 まず攻めに出たのは、やはり好戦的なナップの方だった。砂を蹴って、お互いに円を描 くように移動していたことで生まれていた睨み合いの空気を、強引に真正面から斬りかか ることで打ち砕く。 「はあ!」 二人の間に高まっていた緊張ごと叩きつけられるような上段からの一撃を、アリーゼは 円を描いていた移動の速度を上げることでかわした。肩口をびゅんと通り過ぎていく木棒 にヒヤリとしながら、ステップするように軽快に距離を取る。 否、取ろうとした。 「せあ!」 「きゃっ」 ナップが、アリーゼの位置も確認せずに棒を大きく横振りしながら振り返る。周囲全て を薙ぎ払う棒の切っ先が前髪をかすめ、片手とは思えない力強い連撃にアリーゼはバラン スを崩して後ろにたたらを踏んだ。 「わわっ」 「いただき!」 すかさず、ナップが振り切った木棒を振り子のように返す。尋常でなく鍛えられた強靭 な手首が生み出す無茶苦茶な攻撃に、アリーゼは瞬時に受けるか避けるかの判断を迫られ た。 「避けるしかないね」 「ええ」 ウィルが呟き、興味深そうに見物していたベルフラウも頷く。 その通りに、アリーゼは身を屈めてナップの攻撃の下をくぐり抜けた。 それを見届けて、ベルフラウが瞳を真剣にする。 「アリーゼが本気出すわよ」 低く身を屈めたアリーゼの前で大振りをしてしまったナップは、勝負を急ぎすぎた自分 に舌打ちをした。例えば軍学校の他の生徒が相手ならばそれで良かったかもしれないが、 今相手にしているのは、アリーゼだ。 直後、魔法のようにいつの間にか目の前に迫った木棒の先端に、ナップは慌てて脇のス イカを庇ってそれを脇腹で受けた。 「つっ!」 打たれるというよりも、鋭く刺さるような痛み。その痛みを堪能するよりも早く、同じ 軌道の突きがもう一度ナップの脇を打った。 「い……てぇっ」 さらに直後、軌道を修正した一撃がスイカを狙う。それを大きく後ろに跳んでかわし、 ようやくナップはアリーゼの姿を視界に捉えることが出来た。 「行くよ、ナップくん」 真剣な顔で言う、眼鏡の少女。自分の右側面だけをナップに向ける半身の構えは、ナッ プも舌を巻く軍学校でも四本の指に入る強者の姿だ。 途端に膨れ上がった威圧感に、ナップは面白いと唇を舐める。 「こっからは、マジで行くぜ」 放送席では、クノンが電波を受信していた。 「ただ今情報が入りました。一見おっとりしているアリーゼ様ですがその実、軍学校での 異名は『リボンの剣士』。女性のみの大会では圧勝。男女混合の大会でもナップ様とウィ ル様以外には負け無し。その両人にも幾度か勝利経験のある、軍学校きっての天才剣士と のことです」 「ぐ、軍学校ですから剣は学んでくると思いましたけど……い、意外でした。あのアリー ゼちゃんが……複雑です」 「アティ様、解説をお願いします」 「は、はい。ええと、実際の剣の勝負はともかく、このスイカ割り勝負に関しては、アリ ーゼちゃんの構えは理想的ですね。相手のスイカに武器が近く、自分のスイカは左手―― 相手からは見えない後ろに隠れているわけですから」 「ありがとうございます。では、引き続き試合をどうぞ」 「は!」 「ちぃっ」 矢継ぎ早な突きが、ナップを後退させていた。ナップの剣の使い方は、縦に振り下ろし たり、横に振り回したりが多いのだが、アリーゼのそれはより小さな動きで突くものだ。 真っ直ぐに自分に向かってくる突きは動き出しが確認しづらく、まるでいきなり目の前に 現れるかのような錯覚がある。 しかも、積極的に相手の身体を攻撃することが出来ないスイカ破壊ルールでは、あから さまにアリーゼが有利である。ナップが勝つには、アリーゼの側面や背後に回ってからス イカを狙う必要があり、軽快な少女の動きを見てはその可能性も薄い。 「くそっ。ルールが不利だっ……って、ルール考えたのお前じゃねぇか!」 「あ、気づいた?」 しれっと認めるアリーゼに、ナップは閉口するしかなかった。 (こ、この女……手回しが良すぎる) だが、アリーゼは幼い弟をたしなめるように言う。 「ナップくんの方が実力あるんだし、当然のハンデでしょ?」 「ま、まあな。そうか。そうだな」 実力では上と言われて、ナップもまんざらでもなさそうに頷く。 その会話の間もお互いの間を木棒が行ったり来たりしているのであるが、アリーゼは一 つ提案をした。 「じゃあ……もう一つルールを増やしましょう。古今東西ベルフラウのこと」 「お?」 「金髪」 言うなり、アリーゼらしくない大振りがスイカに迫る。それを簡単に受け流し、ナップ はなるほどと納得した。 「ネタ切れした方が割られろってことか。――貧乳」 「そういうこと。――牛乳嫌い」 「お前、本当にあいつべったりだよな、考え方。――人呼んで『気高き射手』」 「親友だもの。――料理が苦手」 「だからレックス先生とあいつくっつけたがるのか? ――デコが広い」 「さあ? ――お風呂好き」 「お前、いい女だよなぁ……。――今のところ学年総合一位」 「うふふ。ありがとう、ナップくん。――意外と寂しがりや」 「これだって、そういうことなんだろ? 手ぇ回しすぎだ。――親友の名前はアリーゼ」 「どういたしまして。最後です。――好きな人は」 大きく、木棒を振りかぶる。 「――レックス先生!」 音を立てて、ナップのスイカが砕け散った。 途端に拍手する周囲の観客の中で、アリーゼはナップにニッコリと微笑みかける。 「わたしたちの好きなベルフラウは、そういうベルフラウなんだよね、ナップくん?」 と。 そのアリーゼの頭を、歩み寄ったベルフラウが両の拳で挟み込んだ。 「はれ?」 アリーゼが疑問符を浮かべた瞬間、 「いたたたたた、痛い、痛いよベルー!」 こめかみを拳でグリグリと痛めつけられ、アリーゼが悲鳴を上げた。金髪の少女は、頬 を赤くしたへの字口で、アリーゼの耳元で小さく怒鳴る。 「なにやってるのよ! 先生の前で恥ずかしいじゃないっ」 「だ、だって、決着つかなそうだったから。ほら、わたし、ベルフラウのことなら負けな い自信あるから――あー!」 アリーゼの悲鳴が、蒼天の下に響き渡った。 「えー、勝負はアリーゼ様の勝利ということになりましたが、そのアリーゼ様がベルフラ ウ様に『しばかれて』いますので、勝利者インタビューはまた後日ということにさせてい ただきます。それでは、皆さん、また来週。ごきげんよう」 「……また来週もやるんですか?」 呆れるアティ先生である。 さて、一人じゃれあいに紛れ込みそびれたナップであるが、その肩にポンと手を置いた のは、苦笑を顔に貼り付けたウィル少年であった。 その顔を見るなり彼の言いたいことがわかったナップは、げっそりとして言う。 「……言ってみろ」 「あっちと同じこと、して欲しい?」 「ぜってーやだ」 少年少女四人の関係は、そんなものなのである。 続く