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サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS
「真夏の夜に逢いましょう」

			第四幕 -Cパート
     「護衛獣・愛の劇場 → オニビ & キユピー」



 森の木々が風で揺れた時の音を思わせる、どこまでも広がる青い海の波の音。
 寄せては返すその単調な繰り返しが、瞼を下ろしたオニビの耳に快く届く。視界を閉ざ
していてもそこには海があり、動いていることがわかる。
 夏の昼間のこと、砂浜を焼く鋭い陽光は護衛獣の丸く小さな身体を射るように照らす。
元来の本性が火に属するオニビは、この灼熱日さえ適温として、日向ぼっこを続けていた。
 静かに浜辺に身を任せたオニビの周囲は、にぎやかだ。
 かつて忘れられた島を襲った大事件の際に活躍した、抜剣者レックス及びアティの四人
の教え子たち。彼ら生徒たちがひと夏を過ごすために戻ってきたということで、島は全住
民を動員してお祭りのように盛り上がっていた。島の南側に位置する浜辺はまさにその騒
ぎの中心点で、今は多くの者たちが水着姿で水遊びに興じている。
 その楽しげな声を全身を耳にして受け止めつつ、オニビは距離を置き、一人佇んでいる
のだ。
 何故か。
 その理由は、一つである。
「キュ? キュキュー?(あら、どうしたの?)」
 遊びの輪の外にいたオニビのもとに、やはり護衛獣の一人が気がついてやってくる。
 声をかけられてオニビが目を開けると、丸いボールを二つ縦に合わせたようなシルエッ
トの天使の子供がいた。未発達な小さな翼に、赤ん坊なので開かない目。一房だけの前髪。
ぷくぷく丸い身体も指でつつきたくなる、愛らしい姿の護衛獣キユピーである。
 無い首を横に傾げてふよふよ浮いて移動してくるキユピーに、オニビはせつないため息
を見せる。
「ビビィ……(なんでもない……)」
「キュ?(元気ないの?)」
 眉を寄せてキユピーが問うが、オニビは身体全身である顔を横に振る。むう、とキユピ
ーは難しい顔をすると、自分が両手に持っていた棒つきのキャンディを目を閉じたまま眺
めた。
 もう一つ、むう、と口をへの字にする。
「キュキュ〜(元気ないなら、これで元気出しなさいな)」
 大好物のお菓子を、キユピーはオニビの顔の前に差し出した。なんだか良くわからない
けど、元気出しなさい、だ。
 そんなキユピーに、オニビは大きな目をパチパチさせてから、赤い顔の頬をさらに赤く
させて、キャンディの棒を受け取った。
「ニビ……ビビィ(ごめん……ありがとう、キユちゃん)」
「キュ。キュキュ(別に。どうせ二つも食べられないからちょうど良かったわ)」
 女の子に気を遣わせて恥ずかしげに身を縮こまらせるオニビに対し、キユピーはさらり
とそう言って見せる。だけれど、どこか残念そうにオニビの手のキャンディを見てしまっ
ているのでは、説得力は無い。
 オニビはキャンディを返そうかとも思ったが、意地っ張りな彼女が受け取るとは思えな
かったので、小さな手で掴んだキャンディを舐めた。ミルク味と砂糖の甘味が舌にとろけ、
胸に抱いていた寂しさが少し小さくなったような気がした。
 しばらく、二人並んでキャンディを舐めていただろうか。波の音と、人間やはぐれ召喚
獣たちが戯れる声を遠く気に聞きながら、二人は無心にキャンディを舐め、頬張った。
 そして。
「キュ。キュ?(それで、ベルフラウさんのこと?)」
「ビビィ……(うん……)」
 他には聞こえないように、内緒話の大きさでキユピーが尋ねると、オニビは頷いた。そ
の視線が海に向かうと、そこにはオニビのご主人様である金色の髪の少女──ベルフラウ
と、彼女に腕を引っ張られて水辺を走っている赤毛の青年の姿があった。
 最近大人びて、上品な微笑みばかり浮かべていた少女が、無邪気な子供の頃のままの笑
顔で青年を振り回す。頬は上気し、繋いだ手は絶対に離すものかときつく結ばれている。
 仲睦まじい恋人同士。誰もがそう言うだろう二人の姿だ。
「キュ(可愛い人たちね)」
「ニビ。ビビィ〜(うん。やっぱりベルフラウは先生さんと一緒が一番可愛いでしょ?)」
 その時ばかりは、オニビも胸を張って自慢げに言う。
 ベルフラウ。
 ボクの一番大切な人。命をかけて守る人。
 お友達でもあるし、お姉さんでもある人。
 でも。
「ビビ……ビビィビビィ(でも……先生さんといると、ベルフラウ、ボクと遊んでくれな
いんだ)」
「キュ……キュ〜(それは……うん)」
 はあ、とため息をつくオニビ。そのオニビに、キユピーは困った顔になった。
 護衛獣にとって、この世で一番大切な人は、契約をしたご主人様。
 だけれど、ご主人様にとってこの世で一番大切な人は、また別にいる。
 それは、彼ら護衛獣たちがこの世界で生きてきた数年間の間で、確かに納得してきた事
柄なのであるが──たまには、切なくなる日もある。
「キュ。キュ(仕方ないのよ、それは。見てよ)」
「ビ?(なに?)」
 キユピーが、ポンと短い手でオニビの身体を叩き、視線を上げさせる。その先には、ベ
ルフラウの、笑顔。
 オニビの心を嬉しくしてくれる、笑顔。
 キユピーはそれ以上何も言わなかったが、つまりそういうことなのだろう。
「ニビ……ビ。ビビ(うん……そうだよね。ありがとう、キユちゃん)」
「キュキュ!(まったく、世話かけさせないでよね!)」
 オニビがにっこりと笑ってお礼を言うと、キユピーは顔を真っ赤にして頬をぷくっと膨
らませて怒ったふりをした。そして、何故かオニビの額をぴしぴしと食べ終わったキャン
ディの棒で叩く。
「ビ、ビビィ!?(いたっ、痛いよっ)」
「キュキュキュ〜っ(まったくあなたが情けない顔してるのがいけないのよ。わたしの調
子まで狂っちゃうんだからっ)」
「ビビィ……ビィ?(そんな……なんで?)」
 叩かれて涙目になってオニビが逃げるのを追いかけながら言ったキユピーに、オニビは
尋ねる。それに、キユピーは再び真っ赤になって、小さな両手をぶんぶんと振り回した。
「キュキュ! キュキュキュ……(それは! それは……)」
 思わず、キユピーは言葉につまる。オニビは、大きな目でジッと彼女を見る。
「キュ……(それはぁ……)」
 キユピーは意を決して顔を上げた。オニビの真っ直ぐな視線を受け止め、きゅっと唇を
引き結ぶ。さっと、ちまい腕を上げると、少し離れた場所に控えていた機械で出来た護衛
獣アールと、猫のような護衛獣テコがクラシックギターを構える。
「キュ!(それはね!)」
 一、二回ギターの弦を弾いて調整し、アールとテコが手ごろな岩に腰を下ろして演奏を
開始する。
 それは軽い調子の、街中で流れるようなラブソング。
「ピピ……(エンジェル)」
 囁くようにアールが唄いだす。ピックを動かす手つきは、プロのそれだ。
「ピッピピピピピ(今日も僕は振られたよ)
 ピピピーピピ(鏡の中にゃ流行の服に流行の髪型)
 ピピ、ピピピピ(彼女は言ったさ「あなたと同じ男はどこにでもいる」)
 ピー、ピーピー(だけどだけど言いたいね「君と同じ女もいくらでもいる」)
 ピピ(誰も彼も自信無しの弱虫さ)
 ピッピ。ピ〜(流行結構いいじゃない。カッコウつけてカッコウつかないこれが僕)
 ピピピ、ピピ(天使さま、どうかこんな僕を救ってくれないか)
 ピピ、ピ(そうさ君がエンジェル。僕だけの天使)
 ピピ(この恋を受け止めてくれ)」
 軽薄な歌。行きずりの女を誘う、軟派な少年たちの歌。
 だけれど、だからこそ恋に恋する少年少女たちが好んで耳にする歌。
 アールとテコが最後に言葉を合わせる。
「ピピ〜(エンジェル)」
「ニャニャ〜(エンジェル)」
 そのまま、二人の護衛獣は次の曲に入っていく。ピックでギターの胴体をコツコツ叩い
てリズムを取る姿は、すっかりベテランギタリストである。
 そうした音楽を背景として、キユピーは言うのだ。
「キュ──(わたし──)」
 瞬間。
「オニビ、いらっしゃい」
「ビビィ〜!(は〜い!)」
 波打ち際から手を振ったベルフラウに、オニビは瞬時に反応して飛び出していた。それ
はもう凄い勢いで、呼ばれた犬が駆け出すよりも早かった。
 自然その場に取り残されたキユピーは、しばし無言でベルフラウの胸に飛び込むオニビ
を眺めた後。
「キュ……(あなたたち……)」
「ピ?(え?)」
「ニャ?(僕たち?)」
 低い声で呼ばれ、アールとテコが演奏を止めて不安げな顔になった。まずいぞ、という
顔。
 直後。
「キュキュ〜!(あなたたちの歌が長いからオニビが行っちゃったじゃない!)」
「ピピー!(痛い痛い!)」
「ニャー!(ぶたいないでっ)」
 キャンディ棒でペシペシと叩かれ、アールとテコは逃げ出した。しかし、飛行するキユ
ピーに追いかけられて逃げられるはずもない。一方的に叩かれ続け、アールたちは理不尽
な思いに叫ぶのだった。
「ピーピピー!(言われた通りの演目だったのにー!)」
「ニャニャー!(どうしてぶたれるのー!)」
「キュ、キュ、キュ!(もう、もう、もう!)」
 砂浜を駆ける護衛獣ご一行。それを眺め、周りの人々は微笑ましいと笑うのであるが、
小さな彼らがどのような会話をして、どのような力関係を持っているかは、あまり知られ
ていないのである。
 ともあれ。
「行くわよ、オニビ!」
「ビビィ〜!(うん!)」
 ご主人様と戯れるオニビは、今日も幸せそうなのであった。


                                   続く





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