サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS 「真夏の夜に逢いましょう」 第四幕 -Bパート       「バカンスだよ全員集合 → 島民全員」  ――パッ。  ビデオカメラのスイッチが入ると、真っ暗だった画面に、無表情な短髪の少女の顔が映 し出された。  背景は乳白色の砂に太陽の熱をたっぷりと含んだ、広い浜辺。腰から上だけが画面内に 収まったその看護服姿の少女――機界集落<ラトリクス>に住む看護医療用機械人形のク ノンは、ペコリとお辞儀してから口を開いた。 「テレビの前の皆様、おはようございます。本日、忘れられた島特設ビーチはご覧の通り 青空の広がる快晴です。電波の調子もよく、鮮明な映像をお茶の間の皆さんにお届け出来 ているかと思われます」  それでは、とクノンは瞼を下ろす。同時に、てこてこと走ってきた猫に良く似た護衛獣 テコが、精一杯に背伸びして、文字の書かれた板を掲げる。     WHK        真夏のビーチ突撃リポート(ポロリもあるよ) 「なお、W(忘れられた島)H(放送)K(局)は視聴者の皆様からの集金で成り立って います。集金係がお宅に参られた際は、どうかご協力下さい。――私信となりますが、局 長のアルディラ様より、『どこかの怠け者の護人のように滞納し続けると後で大変よ』と のお言葉を預かっております」 「……ポロリあるの?」 「レックス様、カメラマンは無言でお願いします」  カメラマンの質問に、リポーターは淡々とした口調でそう言った。 「では、参りましょう」                 ※  なだらかに広がる、忘れられた島の浜辺。南を見れば海が、北を見れば森と山が見える この島の浜辺には、今たくさんの人々が戯れていた。  もちろん、たくさんとは言っても忘れられた島のことなので、大陸本土の行楽地のよう な膨大な数の人がいるわけではない。ただ、いつも閑散とした場所に、数十を越える人々 が集まっているだけ。それだけなのだ。  だけれど、それだけでそこはどのような行楽地よりも華やかな場所になる。何故なら、 島の住人の大半は、この世界リィンバウムの外から召喚された召喚獣たちだからだ。  まず見れば、幻獣界メイトルパに属する花の妖精が、夏の陽射しを全身に浴びながら宙 を舞っている。視線を移せば日除けのパラソルの下、敷いた茣蓙に腰を下ろして涼んでい る鬼妖界シルターンの鬼姫が一人。水際に行けば、機界ロレイラルで滅んだとされる機械 人の美女が長く波打った髪を掻きあげて、足元を撫でる波に目を細めている。さらに、冥 界の騎士と呼ばれる霊界サプレスの巨漢の騎士が、兜からその正体である半透明の少女の 姿を乗り出させて幸せそうに微笑んでいる。  このような異世界ごちゃまぜの行楽地など、他のどこにも存在しないだろう。 「本日は、昨夜到着されたばかりのゲストの方々もいらっしゃいます」  カメラを回すと、緊張気味の四人の少年少女たちが一列に並んでいた。  クノンが右から順に紹介する。 「まだお若いというのに『ホスト』の貫禄を見せるナップ様」 「……おい」 「優しい顔立ちの裏、『凶器』をきわどい水着に隠したウィル様」 「……あの……」 「理論的にありえない局部の『成長』を信じて牛乳を飲み続けるベルフラウ様」 「……ちょっと……」 「局部が大きくなったためか、『態度』まで大きくなったアリーゼ様」 「ええ!?」 「以上、順番にアリーゼ様、ナップ様、ウィル様、ベルフラウ様からのコメントです」  直後、四人の少年少女の頭がゴチン!ともの凄い勢いで激突した。肩を組んで円陣を囲 んだ四人は、額を突き合わせる距離でお互いの顔を睨んで引きつった笑みを浮かべる。 「へへ……」 「あはは……」 「ふふ……」 「うふふ……」  その様子を見たクノンは、カメラに向かって頷いた。 「大変仲むつまじい学生旅行のようです」                 ※  海の中では、島の子供たちが可愛らしい笑顔を見せて遊んでいた。暑く湿気の強い夏の こと、水の中ではしゃぐのはそれだけで心身に心地好いものだ。  しかも。 「今回は、遊具としてフレイズ様とキュウマ様が貸し出されております。利用料は無料で、 十歳以下のお子様はご気軽にお申し付け下さい。――レックス様、何故泣いているのです か?」  不思議そうに首を傾げるクノンの背後の海で、子供を背負ってもの凄い速度で鮫に襲わ れて泳ぐキュウマと、水上スキーよろしく板の上に乗った子供に縄をくくりつけられて飛 行するフレイズの姿があった。 「遊びつかれて空腹を感じられましたら、こちらへどうぞ」  と、今度はクノンは浜辺の一角を示した。歩いて行くと、香ばしいソースの焦げる香り が漂ってくる。  そこにあるのは一軒の屋台で、数少ない人間の住人であるオウキーニが忙しくたこ焼き やら焼きそばやらを作っていた。隣では赤ん坊を背負った兎耳のシアリィが手伝っている。 「オウキーニ様のご厚意で、島の住民は無料で飲食が可能となっています」 「先生はん、ご苦労様です。お一つどうぞ」  カメラに向かい、オウキーニは皿に乗ったホカホカのたこ焼きを差し出してきた。一緒 につけ汁が添えられ、食べる際には丸いたこ焼きをそれに浸してから食べる、オウキーニ 特性の一品だ。  が。 「遠慮します」  カメラマンはきっぱりと断った。美味しそうなたこ焼きを前にした視聴者の皆さんは首 を傾げたかもしれないが、クノンは少し冷たい声で言う。 「良いの子の皆様は、好き嫌いをしてはいけませんよ」  皿を押し返したカメラマンの手がギクリとしたのは、錯覚ではないだろう。                 ※  カメラを回しながら移動していると、人だかりが出来ている場所があった。威勢よく聞 こえてくるのは「もっと前!」だとか「右、右!」だとかであり、近寄って覗き込んだク ノンはカメラマンを手招きして言った。 「こちらでは、どうやら臨時のスイカ割り大会が始まっているようです。現在挑戦してい るのは風雷の郷の若長であるスバル様。オペレーターは親友のパナシェ様のようです」  目隠しをしたスバルが、木刀を頭上に振り上げた構えでふらふらと歩いている。パナシ ェが詳しく誘導しているのだが、スバルは大雑把に大股で移動するので、すぐに「少し戻 って……だから、半歩でいいんだってば!」と賑やかだ。  やがて、なんとかスイカを割ったスバルが目隠しを取って、青空に向かって木刀を突き 上げると、周りから歓声と拍手が振ってくる。  その平和な光景にカメラマンがじっとそこばかりを撮っていると、クノンに腕を引かれ て次の場所に連れて行かれた。 「次はレックス様のお好きなものの撮影です」 「え? 俺?」  困惑するカメラマンをよそに、クノンはちょうど談笑するアティ、ミスミ、アルディラ の近くに陣取った。水着姿の美女三人の姿に、レックスは無意識のうちにカメラにズーム を効かせる。その辺り、実に素早い。  しかし、クノンの目的は別にあるようで、レックスに後ろを見るように促す。  そこには、オウキーニの店でたこ焼き待ちしているベルフラウの姿があった。 「あちらを映してください」 「?」  言われた通りにすると、クノンが語り出す。 「私は駄目だった」  くるり、とクノンがレックスに再びアティたちを映させる。 「私たちは成功した」  そして、今度は自分にカメラを向けさせる。上に向けた掌には、蜂蜜のようなものが入 った瓶が乗っていた。 「豊かな胸は、女の魅力のバロメーター。ジルコーダクィーン印の、ロイヤルゼリー。大 変お求め安いお値段となっております。お問い合わせ下さい」  CMであった。  カメラマンの好きなものは、おそらくCMに『どこ』がアップで映っているかでわかる ことだろう。                 ※ 「さて、ここでニュースです」  不意に、機械兵士のヴァルゼルドが持ってきたデータチップを読んだクノンが言う。 「ラトリクスのレーダー室より、接近する大型船舶があると連絡が届きました。ですが、 ご安心下さい。どうやらこれは海賊カイル一家の船のようです。午後には到着するようで すので、新しいゲストを迎える準備も進めたいと思います」  船と聞いて周りの顔がさっと緊張したのを見て取ったクノンは、すぐにその正体を知ら せた。明らかな安堵があったのは、この忘れられた島が幾度となく外敵による攻撃にさら されているからだ。はぐれ召喚獣を捕まえて売りさばこうというハンターたちの襲撃は、 一年に一回以上は必ずあるのだから。 「そうか……カイルたちが」  同じく緊張した顔をしていたカメラマンが、懐かしい名前に微笑みを浮かべる。  クノンも、感情表現に薄い顔に、微かだがそれとわかる笑みを浮かべた。  そして。 「レックス様。最後に、カメラをこちらに」 「え? うん」  最後、と言われて、レックスはやっと終わりかと頷く。生徒たちと海で遊ぶ約束をして いたところに、いきなりクノンにカメラマンとして引っ張られていたのだ。 (これで遊べる……)  肩に担ぐ形の、重いビデオカメラをクノンに渡すと、少女型の機械はその重さによろめ いたように膝をついた。元カメラマンであるところのレックスが驚いて手を差し伸べると、 クノンは無造作に彼の水着――海パンに手をかけた。 「え?」 「ポロリ、です」  ――その映像は、忘れられた島のお茶の間に配信されました。                 ※  お花畑と、心の和む美しい音楽がしばらく流れた後、再び映像が浜辺へと戻った。  まず、とクノンが頭を下げる。 「お見苦しい映像がありましたことを深くお詫びします。(ピー!)ックス先生の名誉の ため、週末の再放送の際には一部修正を入れさせていただきます」 「そ、その伏字も嫌だ……」  半べそで海パンをずり上げながら、レックス先生はそう言うのだった。  ちなみに、「(ピー!)」の部分は、護衛獣のアールが担当していた。                 ※  同時刻。  ラトリクスでもらった『テレビ』で放送を見ていたカイル一家は、遅い朝飯を全員が吹 き出していた。  その顔ぶれの中に、アズリアとギャレオもいたことをここに追記するものとする。  全員集合は、数時間後のことである。                                    続く