サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS 「真夏の夜に逢いましょう」 第二幕 -Bパート       「男の子は純情なのだ → ナップ&ウィル」 「――それで、約束を取り付けてきたわけ?」 「ああ。へへっ、ちょろいもんよ」  ぐっ、と親指を立てる親友の姿に、ウィルは「ふーん」と感動無く頷いた。運ばれてき たグラスの中にミルクを一滴垂らすと、琥珀色のアイスティーに白い色が混じる。それを スプーンで軽くかき混ぜながら、少年は興奮冷めやらぬナップの顔を見た。 「これで第一段階は突破、かな」  二人がいるのは、軍学校にほど近い場所にある行きつけの喫茶店の窓際の席だ。一日の 授業が終わった後のしばらくの時間、そこは他の二人の少女も合わせた四人組の指定席と 化す。店員もすでに勝手知ったる相手、ということで、呼びつけない限りは水を入れ替え に来たりもしない。 「だな」  へへ、と笑うナップの顔は本当に嬉しそうだ。幼い少年のように頬を赤くして喜ぶ様に、 ウィルは僕らは何歳だったかな、と苦笑する。  カラン、とグラスの中の氷に音を立てさせて、ウィルはストローをくわえた。表面に水 滴の浮いたグラスは掌に快く、またその飲むという行動は次の言葉までの思考時間を与え てくれる。 (さて……なんて言ってあげようか。せっかくナップが勇気を振り絞ってベルフラウを誘 ってきたんだから、ここはおめでとうでいいかな。アリーゼが誘うって言ったのに、一昨 年の失敗は自分のせいだからって強引に交渉権をもぎ取ってまでリベンジに燃えてるんだ から、応援してあげないと)  一口すする間に、十の思考。頭の回転が速い少年は、友人の気分の良さを壊さないよう に、気を遣った言葉を向けてやることにした。このナップという少年はがさつそうな言動 とは裏腹に、意外と繊細な心の持ち主なので、その辺りウィルも慎重なのである。 「おめでとう。ベルフラウも――」 「あ、もらうな」  ひょい、とナップがグラスを掴んで傾ける。ストローなど使わず、半分以上残っていた アイスティーの全てを喉を鳴らして流し込んでいく。 「ぷはぁ、ごっそさん。で、何か言いかけたか?」 「――ベルフラウも、君がわざわざ遠回りして誘ったことに気がついて、今頃呆れている だろうね。いつもの調子で海に決まったから、とか事後承諾で充分なのに、アリーゼを餌 にして誘おうとするのは、酷く恥ずかしいよ。ベルフラウに一緒に行ってもらいたいって 気持ちが前に出すぎてる。あからさま過ぎる。もちろんこの店の払いは君持ちだ」 「い、陰険な男だなお前……」  お澄まし顔のままサラサラと言うウィルに、ナップは顔を引きつらせて店員を呼びつけ た。注文はもちろん「アイスティー」である。  それに満足し、ウィルは話題を戻す。 「それで、僕が君に頼まれた『ナップくん夏の玉砕作戦』だけれど――」 「待てこら、なんだそのタイトルっ」 「え? アリーゼが脚本くれたけど?」 「聞いてねぇっ!」  がうっと唸って、ナップはテーブルの下のウィルの脛を蹴る。すると、ウィルが即座に 蹴り返し、 「…………」  げし。 「…………」  ごつ。 「…………」  げしげし。 「…………」  ごつごつ。 「アイスティーです」 「あ、ども」 「ありがとう」  ナップが店員からグラスを受け取り、ウィルの前に置くまで報復戦は続いた。無言のや り取りの後にごく普通にナップに礼を言うウィルに、馴染みの店員は苦笑して去っていく。 「……君のせいで仲がいいと思われた」 「お前のせいだろ」  今度はテーブルを挟んで睨み合う。実のところ、この感情の前に出るナップと長年の親 友をやっているウィルは、やはり同じように感情の人なのだ。沈着冷静、時には感情が欠 落しているのではと陰口を叩かれる優等生であったが、同い年の友達とじゃれあう姿は意 外にも幼い。 「それで、アリーゼ作の脚本ってなんだよ」 「第一段階、ナップくん勇気を出してベルフラウを誘う。きゃっほー」 「きゃっほ……」  恥ずかしげも無く文そのままに教えてくれるウィルに、ナップは突っ伏した。 「第二段階、ナップくんベルフラウの水着選びに付き合って大喜び。わーい」 「ほう」 「第三段階、ナップくん海でベルフラウの水着に照れ照れ。まっかっか」 「殴るぞあの女……」 「第四段階、ナップくんご乱心。襲い掛かる。そこに颯爽とアリーゼちゃんが――」 「待て待て待て!」 「うん」  そこでストップがかかることはわかっていたウィルは、どうぞ、と手で少年の言葉を促 した。その冷静な態度に、ナップは「やりにくいな」と閉口する。 「主人公変わってるだろ、絶対」 「いや、そこからベルフラウに嫌われたナップが、新しい女性との出会いをきっかけに自 分というものを見つめなおすストーリーに突入するんだ」 「……ベルフラウは?」 「アリーゼと幸せな家庭を築いてる。二人とその子供の写真入りの手紙を受け取った君は、 不思議と嫉妬や悲しみよりも、友人たちの幸せを祝う心が大きくて驚く。その時、全ては 過去になり、一回り成長した自分、そして新しい愛を得ている自分に気がつくんだ」 「泣くぞ、マジで」  アリーゼとベルフラウの子供ってなんだそりゃ、と少年は椅子の背もたれに身を預けて 脱力した。そんな少年を見て、初めてウィルの顔にクスクスと楽しげな笑みが浮かぶ。 「彼女も、それだけ君とベルフラウのことをわかってるってことだよ。真面目に作戦なん か立てないのは」 「…………?」 「君、周りがお膳立てすると、逃げるだろ?」 「さ、い、あ、く、だ、親友どもっ」  だったら仕方ないから、からかって遊ぼう、などと考えないで欲しい。理解されまくっ ている自分の性格を呪い、理解しまくっている友人たちを呪い、それからほんの少しの気 恥ずかしさも手伝って、ナップは憮然とした顔でテーブルに頬杖をついた。  アイスティーでも奪ってやろうか、と思ったら、すでにウィルの手の中に守られている。  ストローから口を離し、ウィルはしれっとした表情で言う。 「自然が一番。君が思っているよりもずっと、君とベルフラウはお似合いだよ。彼女だっ て、にくからず思ってるさ。最後の夏なんだし、シチュエーションとしては悪くない。告 白というものに確率を求めるなら、今が一番確率の高い時期だと判断する」 「こ……って、馬鹿かお前っ。う、海行くだけだろうがっ」  一気に顔を赤くし、ナップが怒鳴ったが、ウィルはどこ吹く風だ。グラスの中の氷を掻 き混ぜ、唇の端で笑う。 「そうだね。だから、僕は告白だとか意識しない。普通に君らに接してるから、君も緊張 しないように」  聞く者によっては冷たく聞こえるという、ウィルの淡々としたもの言い。だけれど、慣 れた者ならば、この時のウィルが微笑みを乗せた声を出しているのだとわかる。 「四人で楽しい思い出を作ろう。それで全部が終わった後にカップルが一組出来てたなら、 僕は万々歳さ。それは、僕ら四人が一緒にいたってことが無意味じゃなかったってことだ ろうから」  大切なものはなんですか、と。  そうウィルに尋ねても、きっとひねくれた答えが返ってくるのだろう。だけれど、今の 言葉だけで彼が何をどのくらい大切にしているかわかってしまった。  すっかり勢いを殺され、ナップはテーブルの上で頬杖をついたまま、明後日の方向に視 線をさまよわせた。この友人は、普段クールなくせに思いもかけない時に、しかも男二人 の時に限って嬉しいことを言ってくれるからたまらない。  ――結局、身体のむず痒さに耐え切れなくなるのだ。 「あーくそっ! ずるいだろ、一人だけ経験豊富って顔しやがって!」  ナップが全身を掻きながら唇を尖らすと、ウィルはまたしても気軽に言う。 「言わなかったっけ? 僕は十二歳の時にアティ先生に告白してるから」 「うわ、卑怯くせぇっ!?」  十二かよ、とナップはそら恐ろしげにウィルを見る。十二歳。確かに男女の性差を理解 し、異性に恋愛感情を持ってもおかしくはない年齢だ。それでいて、まだまだ怖いもの知 らずに相手に直球で告白出来る力を持った年齢でもある。 「でも、そのおかげで僕は今も先生とたまに会えているわけだし」  それでわかったのだ、と少年は言う。 「他人と特別な関係を結ぼうとすることは、悪いことじゃない。むしろ積極的にすること なのさ」 「へへ〜」  ついに、ナップは両手を合わせてウィルの顔を拝むようにした。  つまりだ。 「ひと勝負終えた先輩でしたか」 「まあね」  おどけて、二人は肩をすくめて笑った。  が。 「――じゃあ、ついでにご教授願いますぜ、旦那。その先生とは、どこまでいったんでし ょうか」 「う……」  サッとウィルは視線をそらした。その反応に、ナップはニヤリと口元をゆるめた。ポン、 と相手の肩を叩く。 「ウィル『くん』?」 「な、なんだ。別に僕が誰とどうつきあっていようが、君には関係ないだろう」 「俺たち親友だよな? な? 後学のために一つ頼むぜ。おごる。今日の払い全部おごる からさ!」 「い、嫌だ、恥ずかしいっ」 「へへへ、人のこと散々遊んどいて、自分のことじゃそれか。今日は寝かしませんぜ、旦 那」  ぐいっとウィルの身体を引き寄せて、ナップは意地の悪い笑みを浮かべた。  そして。 「手ぐらいつないだのか? キスは? もう一歩先は? さらに一歩先は!?」 「ぜ、絶対に言わないっ」 「絶対に言わすっ」  ウィルがナップの腕を弾いて席を立つと、ナップもそれにあわせて立ち上がった。二人 が同時に戦闘態勢に入ると、カランコローンと涼やかな鐘の鳴る音がして、喫茶店に新た な客がやって来る。 「あら」  という甘い菓子のような、聞き覚えのある声に二人が入り口を見ると、 「やっぱりここにいた。ナップくんもウィルくんも、一緒にお買い物にいかない?」 「あなたたち、あまり恥ずかしいことしてるんじゃないわよ」  にっこりと微笑んだアリーゼと、両手を頭上で組み合わせた様を見て呆れたように言う ベルフラウに、男たちは無条件に、 「はい」  と言って顔を見合わせ、お互いに腹に一撃ずつお見舞いしてから乾いた笑いを浮かべる のであった。  ――とにもかくにも、仲の良い二人なのである。                                    続く