サモンナイト3 生徒四人+全員集合!SS 「真夏の夜に逢いましょう」 第二幕 -Aパート 「恋は胸を大きくするか → ベルフラウ&アリーゼ」 「ふふ。すぱーん」 「……アリーゼ」 ベルフラウがナップを殴り飛ばして足早に特殊教室に向かうと、扉の所で友人が待って いた。二人のやり取りを見ていたらしく、小さな拳で口元を隠して上品に笑っている。 「凄い音。廊下の端まで聞こえたんじゃないかな」 「自業自得。海、行くから」 「うん」 それだけの簡単な言葉で、ベルフラウは自分の意向を相手に伝えた。眼鏡の少女は軽く 頷いて了承し、扉をくぐるベルフラウの腕に自分の腕を絡め、先に準備してあったらしい 誰も座っていない席へと誘導する。 教室は、最下段に演劇の舞台の様な教壇のある階段作りで、扇状に広がっている。百人 を越える人間を収容出来る講堂は、今回自由参加の『戦場に於ける捕虜問題の実態』の講 義を受ける生徒たちで賑わっていた。校外から著名な講師を招いての催しのため、最終学 年以外にも下級生や教師陣の姿も見える。 アリーゼが荷物を置いて確保しておいたのは前から三段目の中央の席で、近過ぎず遠過 ぎずちょうど良い位置取りで、ベルフラウは満足して自分の教材を置いた。時計を見てま だ時間があることを確認すると、アリーゼに尋ねる。 「この後、空いてる? 暇だったら、水着選びに付き合ってもらいたいんだけど」 「え〜と……うん、この後は特に何も無いから、平気」 文芸部の部長を務めるアリーゼは、放課後は何かと忙しい身だ。人差し指を唇に当てて しばし考えて頷いた少女は、続けて言う。 「わたしも新しい水着欲しいと思ってたの。去年の……ほら、着れなくなっちゃって」 「……あ、そ」 あはは、と少し恥ずかしそうに自分の豊かな胸を指差すアリーゼに、ベルフラウは乾い た笑いを浮かべた。少年のように膨らみに乏しいベルフラウの水平線に比べ、アリーゼの 胸は登山家の前に立ちふさがる名峰のごとき見事さだ。二人並んでいるとその差は歴然と しており、誰が言い出したか「軍学校の凸凹コンビ」である。 ちなみに、ベルフラウは去年の水着というものを持っていなかったので、伸びた身長に 合わせたものを買わないといけないのである。同じ成長が理由にしろ、その成長部位に随 分な差があるように思われた。主に、ベルフラウの心情的に。 「…………」 「な、なに?」 直前にナップに「貧乳」とこき下ろされていたため、まじまじと見つめてしまっていた らしい。同性の友人の突き刺さるような視線を感じてアリーゼが手で胸を隠すと、蜂蜜色 の髪の少女はハッと自分の見ているものに気がついた。 「ごめんなさい。これじゃあまるでナップね」 「……そこまで言うとナップくんが可愛そうな気もするけど……」 まるで四六時中胸ばかり見ているような言われようである。 とにかく、何かにつけてあの少年は胸の大小でベルフラウをからかうのだ。身近にいる アリーゼが、同年代の平均値を大きく上回る名峰を有していたことは、ナップにとって最 高のからかい材料になっている。 「でも、ベルフラウは別に大きな胸が欲しいわけじゃないんでしょ?」 「からかわれないくらいの大きさは欲しいわ。切実に」 話題が話題なだけに声をひそめて言ってくるアリーゼに、ベルフラウは苦笑してそう返 した。 そして。 「牛乳とか試してみたかど……効果は無かったわね」 「わたしは、牛乳とか特に意識しなかったけど」 「じゃあ、やっぱり無駄だったのね」 長年の努力の果てに、ベルフラウはため息をつく。 アリーゼも自分の知識を総動員して、遠慮がちに言う。 「揉んでもらうと大きくなるって聞くけど……」 と、アリーゼの手がぽふんとベルフラウの平らな胸の上にかぶせられる。 「……揉むって言うより、さする、かも?」 「アリーゼ〜っ」 「いたっ」 思わず拳骨をかますベルフラウである。 「そもそも、アリーゼはその……触ってもらったりしたの?」 「そ、そんなことあるわけないよ」 「でしょ? やっぱり体質なのかしら……」 それもまた悲しい。生まれついて胸の大小が決定してしまっているのでは、そこに努力 の入る余地などないではないか。 すると、アリーゼが「じゃあ……やっぱりあれかな」と呟いたので、ベルフラウはハッ と彼女の顔を見た。ベルフラウの相方の少女は、眼鏡の奥の瞳を照れくさそうな色を浮か べて、あははと冗談めかして言う。 「恋わずらいは胸を大きくする、って言うよね。それならわたし経験ありだから」 誰に、とは言わずに無意味にベルフラウの手を取って「仲良し仲良し」とばかりに手を 上下に動かす。補足するように、 「ほら、恋をすると綺麗になるとも言うでしょ? あれは女性ホルモンの分泌だとか実際 にあるみたいだよ?」 が。 ベルフラウは、一笑に付して肩をすくめる。 「ベルフラウ?」 「甘いわね、アリーゼ。それだったら、私なんか今頃山のように大きな胸で歩けなくなっ てるわよ。もちろん、絶世の美女にもなっていたでしょうね」 「……へ〜」 恋の悩み多き少女に言われ、さすがにアリーゼも苦笑せざるを得なかった。 結論を言うと、 「結局、簡単に胸を大きくする方法なんてないのね」 「参考にならなくてごめんね」 「いいのよ。あなたの苦労を見ていると、大きいばかりが得じゃないっていうのもわかる から」 「言ったな〜。本当に大変なんだからね、肩こりとか」 「ふふ、楽させてるわ。悲しいことにね」 「あはは」 そうして、二人は顔を見合わせて笑った。 その瞬間、笑った二人の間を白いプリントが遮った。 「は?」 「え?」 「青春の悩みは結構だが、講義を始めさせてもらってよろしいかな、お嬢さん方」 声にそちらを見ると、苦笑を浮かべた男性講師が立っており、ベルフラウとアリーゼは 慌てて居住まいを正した。 「し、失礼しました!」 「ど、どうぞ初めてください!」 ベルフラウ、アリーゼの順番で頭を下げ、二人は同時に顔を真っ赤にする。気がつけば、 周り中の視線が二人に集まっていたのである。 (なんで気づかなかったのよ) (ベ、ベルフラウだって) 教壇に戻っていく講師の背中を見送りながら、お互いに肘でつつきあう。 それも、傍目には仲良し二人のじゃれあいにしか見えないのだ。 続く